2005 年 58 巻 8 号 p. 427-431
脳出血に対する降圧療法中に発症した壊死型虚血性腸炎の1例を報告する.症例は65歳男性.以前より高血圧を指摘されていたが無治療のまま放置していた.平成16年4月歩行障害を指摘され近医を受診した.頭部CTにて脳出血を認め当院に緊急搬送された.来院時血圧212/107mmHgであり,入院後直ちに塩酸ニカルジピンの持続静注による降圧療法を開始した.第2病日より38℃台の発熱と腹痛,腹膜刺激症状が出現した.腹部CT検査にて回盲部の腸管壁肥厚を認めた.緊急手術を施行したところ盲腸および終末回腸の一部に漿膜面の色調変化を認め,回盲部切除を施行した.切除標本の肉眼および病理組織所見を含めて壊死型虚血性腸炎と診断した.動脈硬化を有する患者に対する急激な降圧療法は腸管において虚血性変化を助長する可能性があり,脳出血に対する降圧療法に際しては腹部所見にも十分な注意が必要であると考えられた.