はじめに種々の濃度のFeCl3水溶液に浸漬されたSUS304ステンレス鋼の孔食挙動について,電位変動を調べた.Fe3+濃度が比較的低い場合,カソード反応の分極によって生じる典型的な電位変動が観察された.2 番目に内部電流を評価する目的で,アノード (Fe3+を含まない塩化物溶液に浸したSUS304ステンレス鋼) とカソード (Fe3+を含む溶液に浸したSUS316ステンレス鋼) を短絡させた.次にFeCl3溶液中におけるSUS316ステンレス鋼のカソード特性を調べた.このデータはコンピュータに入力され,ポテンショスタットによって測定されるアノード電流が常にその電位における入力されたカソード電流と大きさが等しくなるように制御するプログラムが作られた.最後にこのポテンショスタットを用いて,Fe3+を含まない塩化物溶液中でSUS304ステンレス鋼をアノード分極した.これらの3種類の試験はいずれもほぼ等しい電位変動を与えたことから,「人工カソード」の概念の妥当性が示されたといえる.