抄録
耐候性鋼橋梁に生成した,大きなふくれと多層をなす,いわゆる層状剥離さびと呼ばれる厚いさび層の局所的組成分布をSPring-8の放射光による X 線回折を用いて行った解析事例を紹介した.このさび層の層平均組成はマグネタイトのようなスピネル型酸化鉄が主体であり,30~40 mass%を占めた.これに対して,局所,例えば外層,層間,内層においては,共通してスピネル型酸化鉄の組成割合は高くなく,むしろβ-FeOOHの比率が高かった.このことから,このさび層はスピネル型酸化鉄の組成比が高い層,低い層の積層した多層構造(SPRaP-cell)をもつことを示唆した.この事例が示すように,放射光によるX線回折をさび層の組成分布解析に用いることは有効であると考えられる.