抄録
電子部品材料として用いられる銀はゴムから放出される硫黄ガスにより腐食する.その腐食損傷を評価するために,本研究ではゴムから放出される硫黄ガス濃度を推定する方法を確立した.まず箱形容器を用いた腐食試験により,ゴム共存環境での銀の腐食挙動が単体硫黄共存環境と類似した腐食挙動であることを示した.さらに銀表面に形成された腐食生成物は Ag2S のみであり,銀の腐食生成物の厚さが直線則に従い増大することを示した.また箱形容器環境での銀の腐食速度を決定する要因は,主として硫黄ガスによる銀の腐食反応であり,それに加えて硫黄ガスの拡散であることを示した.したがって銀の腐食速度を硫黄ガスの拡散と反応を考慮した腐食解析により算出できる.この腐食解析の逆問題として,あらかじめゴム共存試験で得られた銀の腐食速度から,ゴムから放出される硫黄ガス濃度を推定した.ゴムからの放出硫黄ガス濃度を境界条件とした腐食解析を用いれば,ゴムが共存する電子装置内での銀の腐食速度を推定できる.これにより電子装置の効率的な防食対策を検証して,装置の耐食性を向上させることが可能となる.