抄録
冷凍空調機器の銅管に発生する局部腐食に,蟻の巣状腐食がある.原因物質はギ酸や酢酸などの有機酸である.冷凍空調機器の熱交換器および配管に関しては,リン脱酸銅が一般に使用される.このため,リン脱酸銅により蟻の巣状腐食の研究が行われてきた.わずかな例の無酸素銅で行った試験結果があり,リン脱酸銅とは腐食速度が異なっていた.本報告では蟻の巣状腐食に対する耐食性を,リン脱酸銅と無酸素銅で比較した.リン脱酸銅と無酸素銅の耐食性を比較した結果,無酸素銅の腐食速度が遅いことがわかった.リン脱酸銅の腐食断面をEPMA分析した結果,Pが酸化していることがわかった.Pは酸化することでH+を生成する(例:P+4H2O→H2PO4-+6H++5e-).したがって,Pを含有するリン脱酸銅は腐食孔内のpHが低くなりやすい.蟻の巣状腐食は,酸化皮膜(亜酸化銅)の破壊箇所で成長する.pHが低くなれば,亜酸化銅が溶解して,腐食速度が速くなる.このため,リン脱酸銅の蟻の巣状腐食は成長が速いと考えられる.無酸素銅は,pHがリン脱酸銅ほど簡単に低くなることができないので成長速度が遅くなると考えられる.