抄録
微生物が関与する金属の腐食現象を微生物腐食と呼ぶ.これまでに,石油タンク底水を用いて実験室レベルでの腐食再現試験に成功し,DGGE解析によって微生物群集構造の変化が起こっていることを明らかにしてきたが,群集構造の詳細と腐食現象の関連付けが出来ていなかった.そこで,本研究では,次世代シーケンサを用いてタンク底水および培養・腐食試験液中の微生物群集構造の詳細を明らかにし,腐食現象と微生物群集構造の関連付けを試みた.タンク底水を用いた群集構造解析では,タンクごとにその群集構造が大きく異なることを定量的に明らかにした.また,その群集構造が,置かれる環境条件によって変化することを明らかにした.加速された鉄の溶出を示した試料KTD1-M-Feでは,Acetobacterium属酢酸菌とDesulfovibrio属硫酸塩還元細菌が集積していた.Desulfovibrio属硫酸塩還元細菌のみが集積した試料で腐食が生じていないことから,Acetobacterium属の酢酸菌が腐食に強く関与することが示された.Acetobacterium属細菌が主要な原因菌として引き起こされる腐食例は,これまでに報告がない.以上の結果から,培養に依存した腐食再現試験と次世代シーケンサを組み合わせた比較解析は,腐食現象と微生物群集構造を関連付けるために有効な手法であると言えるだろう.