2017 年 66 巻 4 号 p. 136-141
PWR1次系環境の応力腐食割れを加速することを目的とし,水素を添加した蒸気環境でのSCC試験が実施されている.古くからSCC試験における表面仕上げの影響については議論されているが,必ずしも一貫性はなく,したがって本稿ではエメリー研磨紙仕上げと鏡面仕上げの2種の試験片を用いて水素添加蒸気中でのSCC発生挙動に及ぼす表面仕上げの影響を調査した.いずれの試験片も450hrごとに試験中断し,表面をSEMにて観察したところ,エメリー紙仕上げの試験片は450hrで割れが認められなかったのに対し,鏡面仕上げでは1粒界に満たないき裂が多数確認された.ただし,1粒界に満たないき裂を除くと,き裂数の時間変化はエメリー紙仕上げと鏡面仕上げでは900hrまでほぼ変わらず,1350hrでは鏡面仕上げのき裂数よりエメリー紙仕上げのき裂数のほうが大きかった.最大き裂長さについてもエメリー紙仕上げのほうが大きいことが明らかになった.き裂深さ,き裂幅はき裂長さに比例するという仮定で,それぞれの試験片での総き裂体積を計算したところ,総き裂体積と検知されたAcoustic Emissionエネルギーの総和の関係から,鏡面仕上げでは表面き裂長さに対してき裂深さが大きい可能性があること,もしくは両仕上げの試験片での微小き裂同士の合体回数,微小き裂の進展量が異なることが推察された.