銅の応力腐食割れに対する感受性は,Zn,P,As,Sb,Siなどの添加によって増大する.その中でもP,As,Sbは,極めて微量の添加量でも感受性を高める.Pは,銅管における重要な添加元素であり,最近になって,りん脱酸銅の約10倍のPを添加した合金(Cu-0.2~0.4%P合金)において,蟻の巣状腐食への耐性を示すことが分かっている.エアコンの熱交換器用伝熱管として使用される銅管での応力腐食割れは,これまでにほとんど発生しない事象であり,耐蟻の巣状腐食合金との関係は分かっていない.本研究では,銅管のP濃度と応力腐食割れの関係について,ヘアピン曲げの観点から調査を行った.
Cu-0.027%P管では,粒界腐食が発生しやすくなった.しかし,Cu-0.027%P管とCu-0.38%P管との腐食進行の程度に明瞭な差異は確認できなかった.多量のPを添加した合金では,結晶粒界へのPの偏析が懸念されるが,FE-EPMAで分析した限り,0.02~0.4%のP濃度範囲での粒界偏析は見られなかった.ヘアピン曲げ銅管での残留応力は,まれな現象であると推測される.これは,銅管の肉厚を薄くした場合でも同様であったが,曲げ加工に異常が生じると応力腐食割れが生じた.すなわち,ヘアピン状に曲げたときに管の形状が不均一となると,局所的に引張残留応力が集中し,応力腐食割れが生じた.
ヘアピン曲げ銅管では,曲げ加工の際の形状不良が応力腐食割れ感受性を悪化させること,0.02~0.4%のP濃度範囲では,応力腐食割れ感受性の変化がほとんどないことが明らかとなった.