2021 年 70 巻 2 号 p. 32-39
すきま構造を持たない自由表面において,直ちに再不働態化する直径数μmオーダーの微小食孔(micro pit)は,準安定食孔(meta-stable pit)と呼ばれる.自由表面において測定されるSUS304鋼の準安定孔食電位(V'cMS)と,すきま腐食発生臨界電位(VCREV)を比較した結果,両者は近い値を示し,かつSUS304鋼はpH≦2.0では不働態化し難く,micro pitも同様に再不働態化し難いことが分かり,micro pitの発生はすきま腐食の起点となり得ることが分かった.各電位のCl-濃度及びpH依存性についてV’cMSおよびVCREVを卑化させるCl-の存在は,micro pitの発生を容易にし,すきま腐食発生に直接寄与すると考えられた.一方,pHの低下は不働態溶解速度を上昇させることで,すきま内へのCl-の電気泳動を促し,すきま腐食発生を間接的に助長する働きがあると推定された.