抄録
本調査において、日本の受刑者処遇に関する一般市民の認識を把握するために、Web調査を行った。回答者(1,000人)のおおむね7割が刑務所内では人権が尊重され人道的な処遇が行われていると認識し、新たに始まる「拘禁刑」制度で教育の機会を拡充することについて8割以上が肯定的に評価する一方で、同様に8割近い回答者が刑罰は軽すぎる、あるいは、刑務所は受刑者に厳しい罰を与えるべきであると回答していた。この一見矛盾する認識の背景を探るためにデータを重回帰分析及びパス解析にかけて分析したところ、回答者の心理の基底にある不安、すなわち、社会の秩序や継続性を危うくする道徳性や規範意識の低下、あるいは社会的絆の欠如に誘発された不安が存在し、これが刑罰の厳しい執行への支持と、教育的な介入への支持双方に結びついた可能性が明らかになった。人間存在の根本的なあり方に関わる不安は「存在論的不安12」と呼ばれ、その解消には社会的環境の秩序と安定性への確信が必要と言われる(澤井,2016,p.138)。「家族制度」、「地域共同体」、「信条・宗教」など、かつて秩序と安定性の維持に機能した伝統が失われつつある現代では、刑法・刑罰という厳然とした枠組みによる秩序の維持と、第三者による教育的介入、あるいは治療的介入による問題行動のコントロールが並行して求められているものと考えられる。