抄録
1930年代前半に中等学校で成立した戦前「公民科」は,「社会科」の前史と位置づけられ,その成立は日本の公民教育史上における一大画期とされる。本稿は,戦前「公民科」成立の意義を認識形成と資質育成を同時に行った学科目という点に求め,それぞれの内容および両者の関係を究明したうえで,それらが成立期の「公民科」教科書にどのような形で具体化されたかについて解明することを目的とする。分析の結果は次のようである。「公民科」における認識形成は,社会・政治・経済上の事項の特質,発展過程,現状とそれに対する評価などを一般的規範的知識としての理念に帰結させて行うものであった。資質育成は,社会生活における行動指針としての社会生活者的資質と,国家が発展するための方策の理解にかかわる国家公民的資質の両者を内容としてなされた。認識形成と資質育成の両者は,社会生活における行動の規範を内容の中心としたため,資質育成優位で関係づけられた。