抄録
初等国語科における環境教育では,「問題意識」「研究技能」「感性」の育成が重要だと言われている。本稿はこのうち前者二点の土台となる「感性」を,比喩の授業を通して育成する可能性について探究したものである。比喩は修辞法の一つであるばかりではなく,現生人類の言語や思考の根源的な原理であると言われる。特に「人を動植物として」あるいは「動植物を人として」重ね合わせて思考する擬人法は,古来より,自然界との調和的な生活を築いていくための「共感をともなった謙虚な知性」や生命倫理を人間社会の中に生み出してきた。擬人法のこうした思考と機能こそが,今日の環境学習の土台として必要な「感性」であると考えられる。そのため本稿では,自身の身体と自然界の事物とを重ね合わせる活動をくり返すことによって子どもたちの擬人化の能力を引き出すことを試みた授業をとり上げ,その方法と効果の考察を行った上で,環境教育への可能性を示した。