日本教科教育学会誌
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38 巻, 4 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
  • 「真の隠喩」としての擬人法に着目して
    秦 恭子
    2016 年 38 巻 4 号 p. 1-10
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    初等国語科における環境教育では,「問題意識」「研究技能」「感性」の育成が重要だと言われている。本稿はこのうち前者二点の土台となる「感性」を,比喩の授業を通して育成する可能性について探究したものである。比喩は修辞法の一つであるばかりではなく,現生人類の言語や思考の根源的な原理であると言われる。特に「人を動植物として」あるいは「動植物を人として」重ね合わせて思考する擬人法は,古来より,自然界との調和的な生活を築いていくための「共感をともなった謙虚な知性」や生命倫理を人間社会の中に生み出してきた。擬人法のこうした思考と機能こそが,今日の環境学習の土台として必要な「感性」であると考えられる。そのため本稿では,自身の身体と自然界の事物とを重ね合わせる活動をくり返すことによって子どもたちの擬人化の能力を引き出すことを試みた授業をとり上げ,その方法と効果の考察を行った上で,環境教育への可能性を示した。
  • 洗濯の学習における持続性概念獲得と中学生の意思決定
    篠原 陽子
    2016 年 38 巻 4 号 p. 11-22
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    平成20年学習指導要領で持続可能な社会の構築に向けて,ESD の視点をもつ教育の充実が図られている。本研究では,まず,平成20年中学校学習指導要領家庭分野衣生活領域の教育内容をESD の視点で捉え直し,構造化を試みた。これを基に洗濯の学習を再構築し,授業を開発し,実践した。この授業は,従来の洗濯の学習に,持続性概念と環境を捉える視点として,水環境や水資源の「有限性」,「循環」,「保全」を加え,生徒が自分の生活行為である洗濯と環境との関係から,ESD の視点をもったものの見方,考え方を知ることを目的とした。授業実践の結果は,①生徒の持続性概念(環境保全)の獲得が期待されるものであった。②洗剤の選定においては,平成10年学習指導要領のもとで実践した授業の結果と比較して,持続性概念(環境保全)の視点をもった意思決定が行われていた。今後は,持続可能な衣生活を営んでいくうえで,生徒が衣生活をより体系的に探究することができるように,必要な内容を開発し,授業改善を進めていく。
  • 「道徳性」と「社会認識」の統一的育成の視点を中心に
    宛 彪
    2016 年 38 巻 4 号 p. 23-34
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    現代中国における素質教育改革の一環で誕生した小学校「品徳と社会」は,改革をどのように反映したものとなっているのか。本研究では,「道徳性」と「社会認識」をどのように統一的に育成していくのかという視点から,大きく「道徳性重視型」「道徳性と社会認識の折衷型」「社会認識重視型」の3つに分類し,その代表的な教科書の比較分析を通して,上記の課題の検討を行った。その結果,以下の3点が明らかとなった。第1は,「品徳と社会」は,社会認識を通して現代中国社会が求める価値観や態度を育成しようとする教科として誕生していることである。第2は,「道徳性を教えるために社会を認識させる」「道徳性と社会認識の両方をバランスよく形成する」「社会認識を通して道徳的資質を育成する」という3類型の授業構成の違いが見出されることである。そして第3は,それらに共通する授業構成の改革的な特質として,社会的な問題や課題を教材として取り上げ,その解決策を考えさせることによって「公民的資質の基礎」を育成しようとしている点を指摘することができることである。
  • 大曲 美佐子, 榎本 ひろ子
    2016 年 38 巻 4 号 p. 35-44
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究は,中学1年生を対象に,思春期の自分と親との関係性の学習を通して,親子関係を考えるとともに,家族的なセルフエスティームを形成し,高めることを目的に,家族関係に関する学習教材の授業実践による学習効果を検証する。1つは, 学習指導要領の指導項目「A 家族・家庭と子どもの成長」の「自分の成長と家族や家庭生活とのかかわり」について,新たな指導内容であることから,文部科学省検定済み教科書に記載されている思春期の親子関係の内容を検討する。2つは,思春期の自分と家族について考える学習プログラムを作成し,学習教材の学習効果を検証する。その結果,3社とも,自分の意思を伝えるアサーティブコミュニケーションスキルの記述が不十分であった。また,学習教材については,学習後の思春期の親の役割を知った生徒が増え,有意差が見られたことから一定の学習効果があったと言える。今後の課題は,生徒の発達段階に応じた思春期の親子関係とセルフエスティーム形成及びアサーティブコミュニケーションについての学習教材の開発が必要である。
  • ポライトネス理論の観点から
    ブラーエヴァ マリア, 玉岡 賀津雄
    2016 年 38 巻 4 号 p. 45-56
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究では,ロシア語を母語とする日本語学習者が日本語を学習することによるポライトネスの構造と意識変容への影響を,依頼の断り難さと依頼者への配慮に着目して調査した。ポライトネス理論の枠組み(Brown & Levinson, 1978, 1987)では,ある行為x の持つフェイス侵害リスク(Wx)の大きさは,相手との社会的距離(D),力関係(P),x という行為が特定の文化内でもつ負担の度合い( Rx), の3つの要因で, Wx=D(S, H)+P(H, S)+Rx と示される(S は話し手,H は聞き手である)。この理論的な枠組みを使って,依頼に対する断りに影響する諸要因の強さを回帰木分析で検討した。分析の結果,ポライトネス理論の公式で示された諸要因が影響することを支持した。さらに,社会的距離が強く影響し,力関係,依頼場面および言語使用の違いはその次に影響する要因であることが分かった。本研究では,ポライトネス理論の影響諸要因の中で階層性があることを実証した。また,全体としては弱い要因ではあるが,日本語を学習することでロシア語の使用への影響(逆行転移),ロシア人としての民族的アイデンティティの維持,目標言語の文化への順応が依頼場面に応じて起こることを示した。
  • 小学校における総合的な学習を事例として
    平田 幸男
    2016 年 38 巻 4 号 p. 57-66
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    授業研究会の成果をふりかえり教育実践に役立てるには,当該の授業研究会でどのような議論が行われたのかを精確に把握することが重要である。そこで,本研究では,授業研究会の議論において,とくに教師の指導についてどのような評価が行われているのかについて分析した。事例は,小学校における総合的な学習の時間である。また,分析にあたっては,関連性評定質的分析法による分析結果を手がかりとした。関連性評定質的分析法は,質的データの分析に数量的な分析を取り入れた手法であり,逐語録のような言語的資料をより適切に解釈することができる。その結果,授業研究会の議論で教師の指導について評価している5点の内容が明らかになった。本研究により,関連性評定質的分析法を用いて授業研究会の議論を分析することが,一定程度の妥当性を持つことが示唆された。本研究は,個別の授業研究会における議論を精確に把握するための一つの手法を示した。
  • 水野 大輔, 水落 芳明, 原 瑞穂, 三崎 隆
    2016 年 38 巻 4 号 p. 67-76
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究では,授業の目標表現によって,授業者の形成的評価が学習者にどのような影響を与えるかについて着目した。授業の目標表現に評価基準となる「数値的な言葉」,「学習のキーワードとなる言葉」,「活動の主語を示す言葉」等を取り入れて実践した授業について,授業者の自己評価や授業者に対するインタビューを分析した結果,授業で学習者の目指す姿が具体的になり,授業者と学習者で目標を共有して取り組むことが明らかになった。また,授業のプロトコル分析の結果から,目標表現に評価基準となる言葉が示されることで,授業者の形成的評価のフィードバックが,学習者の目標の理解に効果的に働くことが示唆された。
  • 安彦 忠彦
    2016 年 38 巻 4 号 p. 77-83
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本論では,日本の学校の教育課程が,これまで「教科」と「教科外」の二つの領域に分かれていたけれども,最近の「総合的な学習の時間」のように,従来の二つの領域とは異なる性質のものも現れたため,あらためて,教育課程全体をどのような領域によって構造化するのか,その中での「教科」のあり方はどのようなものか,について検討したい。
  • 佐藤 学
    2016 年 38 巻 4 号 p. 85-88
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本稿では,教科教育研究への期待を述べ,①教科教育研究の「領域」としての性格,②「教師の知識」研究としての教科教育研究,③カリキュラム研究としての教科教育研究,④教科書研究の必要性,⑤教師教育における教科教育研究の課題,⑥授業研究における教科教育研究の課題について提案を行いたい。
  • 森 敏昭
    2016 年 38 巻 4 号 p. 89-95
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    学習科学は学習と教育について科学的に研究する新しい学問分野であり,認知心理学,発達心理学,教育心理学,脳科学,教育学,社会学,文化人類学,教育工学などの多様な学問分野を総合することによって急速に発展しつつある学際的科学である。すなわち学習科学が目指しているのは,学習を促進する認知的・社会的条件を明らかにし,研究で得られた知見を人々がより深く,より効果的に学ぶことができるように学校の教室や他の学習環境を再デザインすることである。本稿では,学習科学の最近の幅広い研究成果を精査し,教科教育の改革に向けて提言を行う。
  • 社会科を事例にして
    池野 範男
    2016 年 38 巻 4 号 p. 97-102
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本稿は,教科教育を「危機」と捉え,その拘束条件から解放することを目的にしている。解放を成し遂げるためには,教育の構図と方法論の保持が必要である。 教科の教育は,その存在を学校教育の他の領域に威圧され,独立性を揺るがされ,その意義を見失っている。目標実現の構図とその教育論理を探求する方法論とを持つことで,教科教育の存在意義を回復させる。それにより,教育学・心理学,専門科学への依存から脱し,独立性とその教育的意義を持たせる。このことを学問的に保証するのが教科教育学である。 教科教育がその危機から脱するには,神話的な力からの解放が必要である。それは,教育学・心理学,専門科学の関連科学からの,自立・自律化である。それはまた,目標実現の教育の構図と,それを独自に探求する研究方法論を持つことを条件としている。それこそ,教科教育学が教育と研究において独立する条件である。
  • 山本 信也
    2016 年 38 巻 4 号 p. 103-109
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    学校教育における数学教育(教科としての算数・数学の全体)はなぜ必要か?について考察し,その可能性を常に追求することは我々にとって大きな課題である。しかし,その課題を追求するには,そもそも数学教育とは何か,何ができるのか?これら最も根本的な問いについて考察する必要がある。本稿では1987年ドルトムント大学(ドイツ連邦共和国)に設立され,就学前から高等学校及び教員養成課程までの数学教育を統一的に捉え,その研究開発を進め,現在実質的な成果をもたらしつつあるプロジェクトmathe2000 の理念を参照しながら,この問題を考察した。就学前から高等学校及び教員養成課程までの数学教育を統一的にとらえるための「パターンの科学としての数学」観の採用,「デザイン科学としての数学教育学」を共通理念の設定がこのプロジェクトの独自性である。その2つ独自性は,これからの数学教育の研究開発に有望な方向性を示唆している。
  • 丸山 真司
    2016 年 38 巻 4 号 p. 111-116
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本稿では,戦前の学校体育の教科観を素描しつつ,ドイツの学校スポーツの構想,日本における運動文化論に立脚した学校体育の構想を事例として取り上げ,「体育は何を教える教科か」という問題について論じた。戦前の学校体育においては「身体の教育」観のもとで体操(体育)は「身体と精神の鋳型化機能」を発揮するための内容や教材がその中核を占めていた。ドイツのスポーツ指導要領開発は,学校スポーツの「正当化問題」を中心に据えながら,指導要領の基本方針-理念-学校スポーツの全体像-教育学的パースペクティブ-内容(領域)というカリキュラム編成の論理の中で展開された。運動文化論に立脚した学校体育の構想では,運動文化の継承・発展・変革・創造の主体者形成という学校体育の目的-運動文化の学びを包括する3つの実践課題領域(「3ともモデル」)-運動文化がもつ技術性,組織性,社会性に関わる教科内容(領域)の編成の論理を『体育の教育課程試案』の中で描き出している。ドイツ及び日本の事例から,学校体育の存在根拠は,子どもの実態(生活課題と発達課題)と社会的要求→教科の理念-目的(目標)の確認・設定→教科内容(領域)の編成→授業実践化→実践を基盤としたカリキュラム開発というサイクルの中でその正当性を検証していく必要がある。
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