抄録
現代中国における素質教育改革の一環で誕生した小学校「品徳と社会」は,改革をどのように反映したものとなっているのか。本研究では,「道徳性」と「社会認識」をどのように統一的に育成していくのかという視点から,大きく「道徳性重視型」「道徳性と社会認識の折衷型」「社会認識重視型」の3つに分類し,その代表的な教科書の比較分析を通して,上記の課題の検討を行った。その結果,以下の3点が明らかとなった。第1は,「品徳と社会」は,社会認識を通して現代中国社会が求める価値観や態度を育成しようとする教科として誕生していることである。第2は,「道徳性を教えるために社会を認識させる」「道徳性と社会認識の両方をバランスよく形成する」「社会認識を通して道徳的資質を育成する」という3類型の授業構成の違いが見出されることである。そして第3は,それらに共通する授業構成の改革的な特質として,社会的な問題や課題を教材として取り上げ,その解決策を考えさせることによって「公民的資質の基礎」を育成しようとしている点を指摘することができることである。