抄録
本小論の目的は,『歴史を通して考える』シリーズを取り上げ,社会科が本来目指すべき民主主義社会に生きる市民に必要な市民性の育成をより直接的に歴史教育において実現しようとするとき,どのようなカリキュラム編成を行うことが望ましいのかという問題に関して,その一つの在り方を具体的に解明することである。分析の結果,①民主主義社会に生きる市民に必要な市民性の育成をより直接的に歴史教育において実現しようしていること,②そのために人権を重視する民主主義社会,多様性に依拠し国際的に協調することが求められる社会,に生きる市民として,対立を民主的に乗り越えていく必要があるという見方・考え方の育成を目指す構成をとっていること,③そうした見方・考え方を多面的・主体的に構成することを目指した単元構成と学習方略をとっていること,④目標に応じて実践者が別ルートを選択することを可能にしていること,⑤別ルートをとることで現代民主主義社会に生きる市民として必要な認識や資質の一部を強化することが可能となるよう組織されていること,が判明し,我が国の歴史教育改革や教科書観に影響を与える,非常に興味深い教育内容編成構造を取っていることが,具体的に解明できた。