日本教科教育学会誌
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39 巻, 2 号
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  • ― QUILT フレームワークに基づく発問の効果に焦点化して ―
    山岡 武邦, 松本 伸示
    2016 年 39 巻 2 号 p. 1-12
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究は,QUILT フレームワークに基づく理科固有の発問フレームワークに依拠した理科授業を実践することにした。認知的葛藤を生起させるための“Puzzling picture”と議論を構築させるための“Think-Pair-Share”とを活用した。より効果的な“Puzzling picture”の活用に向けて,発散的発問から始め,不可解な絵を活用しながら科学的知識へと導くための収束的発問に至る教授方略を導入することによる効果を明らかにすることを目的とした。なお,科学概念の定着度や理解度を手がかりとした量的分析に加え,質的分析の観点から分析を行うことにした。そのために,単元「物質の状態変化」において,中学校第1学年の生徒138名を対象とした理科授業を実践した。質問紙調査,ワークシートに見られる記述内容から量的分析を行ったり,授業の様子を記録したIC レコーダーの記録内容から質的分析を行ったりした。その結果,以下の3点が明らかとなった。(1)他者との交流を踏まえて記述するThink-Pair-Share ワークシートは,観察・実験結果や,結果の理由を記述しやすくなる傾向がみられること。(2)科学概念の獲得の観点で,学習者の学習効果を高められ,1か月後にもその傾向が見られること。(3)発問フレームワークが上手く機能し,発散的発問で出された多くの意見が,収束的発問で活発な意見交換へと繋がっていく様子が見出されたこと。
  • ―『 歴史を通して考える』シリーズを手がかりに ―
    竹中 伸夫
    2016 年 39 巻 2 号 p. 13-24
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本小論の目的は,『歴史を通して考える』シリーズを取り上げ,社会科が本来目指すべき民主主義社会に生きる市民に必要な市民性の育成をより直接的に歴史教育において実現しようとするとき,どのようなカリキュラム編成を行うことが望ましいのかという問題に関して,その一つの在り方を具体的に解明することである。分析の結果,①民主主義社会に生きる市民に必要な市民性の育成をより直接的に歴史教育において実現しようしていること,②そのために人権を重視する民主主義社会,多様性に依拠し国際的に協調することが求められる社会,に生きる市民として,対立を民主的に乗り越えていく必要があるという見方・考え方の育成を目指す構成をとっていること,③そうした見方・考え方を多面的・主体的に構成することを目指した単元構成と学習方略をとっていること,④目標に応じて実践者が別ルートを選択することを可能にしていること,⑤別ルートをとることで現代民主主義社会に生きる市民として必要な認識や資質の一部を強化することが可能となるよう組織されていること,が判明し,我が国の歴史教育改革や教科書観に影響を与える,非常に興味深い教育内容編成構造を取っていることが,具体的に解明できた。
  • ―〝 旨趣の標〟の近世古典注釈からの継承と近代教科書としての加工 ―
    信木 伸一
    2016 年 39 巻 2 号 p. 25-35
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    明治初期教科書『本朝文範』の〝旨趣の標〟は,「普通文」をめぐる言語的格闘の中で,その創出に向かう文章学的な試みであったと考えられる。1.『 本朝文範』の〝旨趣の標〟は,近世注釈書『源氏物語評釈』の「眼目の語」を基盤として作られた。『評釈』の標が,どのような場面として読むのかを提示しているのに対して,『本朝文範』の標は,表現の要語に注目させるものである。2. 近代和文教科書における〝旨趣の標〟には,『日用文鑑』のように段落の要旨を示すものと,『本朝文範』のように文章のテーマに即した中心となる概念を示して読みの技法を教えると共に文種に即した表現上の要語を示すものとがある。3.『 本朝文範』の「◎」の標は,文種の特徴を踏まえたもので,その文章を面白く巧みなものにしている効果的な表現に付けられている。4. 後の作文教科書に,表現の技法を教える『本朝文範』の〝旨趣の標〟を受け継いだものがある。
  • ― ESD(持続発展教育)を視点とした家庭科教育内容開発研究 ―
    篠原 陽子, 渡部 友紀子
    2016 年 39 巻 2 号 p. 37-49
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    小学校家庭科衣生活領域で指導する日常着の快適な着方について,前報では,被服学の視点から,着用状態における衣服の快適性を定義し,衣服の生理的快適性として,衣服内気候,衣服圧,肌ざわりが要因となることを示した。このうち,肌ざわりについて教育内容を開発した。本研究では,前報に続いて,衣服内気候の要素である衣服の湿潤感について,「布の湿気の通しやすさ」の教育内容を開発した。衣服の素材となる布の性質によって,湿気の通しやすさが異なる事実を,児童が発見できるよう,透湿度試験(JIS L1099; A-2法,2012)を基に実験を開発し,授業化を示唆するものである。実験結果は,布を構成する繊維の化学的性質や,繊維の集合体としての性質が,水蒸気の吸湿量や透湿量に関係することが理解できるものであった。蒸れを感じる定性試験と併せて,児童が体験的・実践的に学ぶことにより,自分と衣服との関係を科学的に捉え,着用目的や環境条件に合わせて,衣服の快適な着方を意思決定することができるものと期待される。子どもたちが持続可能な衣生活を構築していくために必要な基礎的な知識として,何をどのように着るのか衣服の着方に関して,持続性ならびに科学的な視点をもった意思決定が可能となる教育内容を提案することができた。
  • 阪上 辰也
    2016 年 39 巻 2 号 p. 51-60
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究では, 1) 日本人英語学習者による英語関係節の産出傾向はどのようなものであるか,2) 統語構造・有生性の影響による日本人学習者に特有の産出傾向が見られるか,という2つの研究課題を設定し,The International Corpus Network of Asian Learners of English(ICNALE)という学習者コーパスを用いて,関係節の産出傾向の分析を行った。統語構造の観点からは,which の場合は特に,日本人英語学習者以外の学習者や母語話者が,目的語位置にある名詞より,主語位置にある名詞を関係節化させる傾向が見られた。一方で,日本人英語学習者はその逆の傾向を示し,また,有生性の観点からは,無生名詞に比べて,有生名詞を産出する傾向が見られた。この結果を踏まえての教育的示唆として,教室内での英語関係節の導入に際しては,無生名詞を先行詞とし,なおかつ,主節の主語として使われる関係節の用例を多く提示することが挙げられる。
  • 平林 健治
    2016 年 39 巻 2 号 p. 61-70
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究では日本人の一般的な高校生の英語力に相当するCEFR-J A2レベルの学習者によって記述された自由英作文の評価および採点基準となるルーブリックの作成を試みた。このルーブリックは平林(2015a)によって実証されたCEFR-J A2レベルの自由英作文の言語的特徴である総語数,リーダビリティの指標のColeman-Liau Index(CLI),Error-free T-unit 平均語数(EFT平均語数)の3つの説明変数を利用した。このルーブリックでは,評価の観点は,総語数を「情報性の豊かさ」とし,CLI を「語彙や文体の難易度」,EFT 平均語数を「エラーが少なく熟達した英文」とした。平林(2015a)で分析の対象とした106個の自由英作文テクストに対する全体的評価とこのルーブリックを基に採点した評価の間には正の高い相関関係がみられ,ルーブリックによる評価の妥当性も明らかにした。
  • 古田 久
    2016 年 39 巻 2 号 p. 71-80
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    学校の体育授業においては,課題を次々と達成し運動技能を上達させる学習者がいる一方で,なかなか技能を上達させることができない学習者がいる。そのような学習者は運動不振と呼ばれるが,彼(彼女)らの技能を上達させることは体育・スポーツ指導者の重要な課題の1つである。本研究では,運動不振を呈する大学生を判定する尺度を開発するために2つの調査を行った。最初の調査では,大学生版運動不振尺度の質問項目を作成・選択し,尺度構成を行うことが目的であった。312名の大学生を対象に質問紙調査を実施した。外的基準との相関に基づいて,本尺度に使用される質問項目は8つに絞り込まれ,因子分析の結果,「身体操作力」と「ボール操作力」の2つの因子(下位尺度)から構成されることが明らかとなった。これらの下位尺度と外的基準との間に比較的強い相関が認められたため,本尺度は十分な基準関連妥当性をもつと考えられた。第2の調査では,77名の大学生を対象に,大学生版運動不振尺度を2回実施した。1回目と2回目の得点間の関連を分析した結果,全体としてはr=0.8を超える相関が認められたため,本尺度は十分な信頼性をもつと考えられた。以上のことから,本研究において開発した大学生版運動不振尺度は妥当性と信頼性を備えていると考えられる。
  • ― 一般化可能性理論を用いた検討 ―
    福田 純也, 石井 雄隆
    2016 年 39 巻 2 号 p. 81-89
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究は,中国語を第一言語とする日本語学習者の作文に対する日本語教師の評価を一般化可能性理論によって検討した。一般化可能性理論とは,相関係数や信頼性係数のみでは検討することができない,評価の際に影響する要因の複合的な影響を統計的に検証するための枠組みである。その結果により,どのような要因が評価の変動に対して強い影響を与えるのか,さらにどのくらいの人数を評定者とした場合に十分な信頼性が得られるのかを検討した。調査では,日本語教育を専門とし,教育歴が3年以上の日本語教師8名と,日本語教育を大学院で専門として日本語教師を目指す大学生・大学院生7名に,学習者16人のエッセイを評価することを依頼した。結果として,適切なトレーニングなしに高い信頼性を持って学習者の作文評価を行うことは,経験が豊富な日本語教師でも困難であることが示唆された。本結果は,経験によって信頼性の高い評価ができるようになるという日本の英語教師を対象とした先行研究結果とは異なるものであった。本研究結果は,大学生・大学院生と経験の豊富な日本語教師が異なる点に着目し評価を行っている可能性や,用いられるトレイトの解釈が教師経験によって異なる可能性があることなどを示唆している。またこれらの結果を以って,今後行うべき研究の方向性を考察した。
  • ― 小学校5年生児童を対象として ―
    筒井 茂喜, 日高 正博, 後藤 幸弘
    2016 年 39 巻 2 号 p. 91-102
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    暴力行為に走る子どもの背景には「他人に対する共感的な心情」が弱まっていることがあるのではないかと指摘されている。著者ら(2011b,2012)は身体接触を伴う運動「組ずもう」「カバディ」の授業実践を行った結果,身体接触を伴う運動は児童の中に「相手に対する共感的な心情」を生起させ,「攻撃的な感情の表出」を抑制させることを明らかにしている。本研究では,身体接触を伴う運動「タッチフットボール」の授業を行い,その教育的効果を「組ずもう」「カバディ」と同様に「身体への気づき」「攻撃性」「筋出力の制御力」の観点から検証した。その結果,「タッチフットボール」は,有意ではないが児童の「筋出力の制御力」「身体への気づき」を高め,「攻撃的な感情の表出」を抑制する傾向のあることが窺われた。しかし,その効果は「組ずもう」に比べ顕著なものではなかった。この効果の相違は身体接触の仕方の違いによるものと推察された。
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