抄録
本研究では,済州の音楽文化が教育実践者によってどのように再構成され,学校教育における教材として位置づけられ,実践されるのかという観点から地域固有の文化を扱う音楽科教育の在り方を考察する。済州での授業実践から見えてきた教育的意義についてまとめると,次の3点が指摘できよう。第1に,巫俗儀礼や農・漁業労作歌の学習に空間的な要素を取り入れることは,伝統的な様式にできる限り近い形で行われている点で意味がある。第2に,土地の伝統衣装や農具・漁具を用いることで,生活と密着した芸能であることに気づき,伝統・文化の理解につながる。第3に,済州方言を歌唱学習に積極的に取り入れることで,リズムや言葉の抑揚が音楽に生かされ,音楽と言葉に対する理解が深まる。このように,地域固有の文化の学習では,郷土性や地域性に着目した授業構成が必要であろう。それは,子どもに内在している土地の伝統的な音感覚を気づかせることになり,地域固有の文化の特質に依拠した音楽学習を通して,子どもに生活と密接に結びついた音楽の存在を意識させることができると考えられる。