日本教科教育学会誌
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39 巻, 3 号
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  • ― 済州民謡の特性を生かした実践事例から ―
    金 奎道
    2016 年 39 巻 3 号 p. 1-12
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究では,済州の音楽文化が教育実践者によってどのように再構成され,学校教育における教材として位置づけられ,実践されるのかという観点から地域固有の文化を扱う音楽科教育の在り方を考察する。済州での授業実践から見えてきた教育的意義についてまとめると,次の3点が指摘できよう。第1に,巫俗儀礼や農・漁業労作歌の学習に空間的な要素を取り入れることは,伝統的な様式にできる限り近い形で行われている点で意味がある。第2に,土地の伝統衣装や農具・漁具を用いることで,生活と密着した芸能であることに気づき,伝統・文化の理解につながる。第3に,済州方言を歌唱学習に積極的に取り入れることで,リズムや言葉の抑揚が音楽に生かされ,音楽と言葉に対する理解が深まる。このように,地域固有の文化の学習では,郷土性や地域性に着目した授業構成が必要であろう。それは,子どもに内在している土地の伝統的な音感覚を気づかせることになり,地域固有の文化の特質に依拠した音楽学習を通して,子どもに生活と密接に結びついた音楽の存在を意識させることができると考えられる。
  • ― 合成抵抗概念の構築過程を事例として ―
    豊田 光乃, 小野瀬 倫也, 佐藤 寛之
    2016 年 39 巻 3 号 p. 13-25
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    高等学校物理基礎の電気分野の単元において,子どもは単元の学習後であっても並列回路を流れる電流の量を電流が枝分かれするという考えから現象を説明するため,回路全体の電気抵抗を捉える合成抵抗の理解が不十分であるという学習実態があった。このような理解の不十分さを改善するために,自己調整学習を促す教授枠組みである理科学習における教授スキームを援用して授業を開発し,実践した。さらに,その授業実践における教授学習過程を「学習前の考えの引き出し」「考えの共有・吟味・借用」「電気分野の諸概念の拡大・修正Ⅰ」「電気分野の諸概念の拡大・修正Ⅱ」「合成抵抗概念の精緻化」といった場面ごとに分析した。つまり,教授学習過程の各場面での自己調整学習の様態を表すことで,開発した授業デザインの有用性を検討した。その結果,子どもが並列回路を流れる電流について,「電圧」や「合成抵抗」という視点から捉えるようになり,既有の概念を整理し,自分なりのモデルを用いて概念を再構築していくという自己調整学習による合成抵抗概念の構築過程が明らかになった。
  • ― M-GTAを用いた授業分析を手掛かりとして ―
    河原 太郎
    2016 年 39 巻 3 号 p. 27-37
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究は,バングラデシュで求められている探究的な授業像に着目して,理科授業の様相を定性的に浮彫りにすることを目的とした。授業分析の手法としては,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いた。結果,授業は【知識の育成】,【知識の確認】,【知識の定着】,【学びの支援】,【詰め込み】,【外的要因】の6つのコア・カテゴリーで構成されていた。実践的貢献として,授業の前半に観察や思考力が求められる問いかけを用いながら探究型の学習の導入を行っているものの,全体的に生徒が簡単な単語で答えられる質問が多く見られ,特に後半では詰め込み型の特徴をもった授業に移行しており,教師主体の要素が強く盛り込まれていることが明らかになった。理論的貢献として,授業分析手法としてのM-GTA は,広く引用される3つの研究における項目を包括していたのみならず,【外的要因】に関しての抽出も可能であることが明らかになった。
  • ― ペスタロッチーの生活陶冶論を中心として ―
    大沢 裕
    2016 年 39 巻 3 号 p. 39-50
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    J. H. ペスタロッチーは,人間らしさを育む教科内容を視野に入れていた古典家の1人である。本論文の目的は,彼の生活陶冶論を中心として,人間らしさを育む教科のあり方,その仕組みを考察することにある。彼の考える教科編成は,基本的に人間の知・心・体の枠組みをもって構成されており,我が国や世界の学校教育で一般的になっている教科構成と共通点も多い。彼の教科教育で注目すべきところは,教科構成の独自性というよりは,教科教育としてのあり方の問題提起である。彼は,どの教科の教育でも,困窮と生活の味わいの要素を取り入れようとする。核心は,どの教科においても子どもが課題解決を通じて自分の生き方を対象化し,低次元の自己を乗り越える機会を設定することである。しかし子どもが純粋な意志から活動しつつあるかどうかを確かめるには,ただ子どもの発する言葉に目を向けるほかはない。各教科は,言葉を試金石とし,固有の立場から,子どもの生き方を高めていかねばならない。しかし各教科のねらいが人間の個別的な力の増加におかれ,直ちに人間らしさが育まれると錯覚されれば,子どもが自らの力を生活の中で人間的に適用する際に混乱を引き起こす。教科間の相互の関係性に彼が注目し,しかも子どもたちの間に「わたしたちの題材」という意識を目覚ましながら人間らしさを育もうと格闘したことは,人間性に迫る教科が問われる今日に,真にアクチュアルな示唆を提起している。
  • ― 小・中学生の「蜘蛛の糸」に対する反応分析を通して ―
    武田 裕司
    2016 年 39 巻 3 号 p. 51-62
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    文学的文章の読みにおいては,物語の世界に浸る「体験」とその世界を形作っているその約束事や構造とでもいうべきものの両者に目を向けることを読者が獲得することが重要な要素となる。そこで本研究においては,「語り手」に着目して文学的文章を読むことの意義を小中学生に対する反応分析を基に検討する。「語り手」に着目をした読みを行うことは,文学的文章の構造に目を向けることであり,そのことは深い読みを生み出す契機となるものである。本稿においては具体的な反応を事例としながら「語り手」に着目した読みの意義について検討することで,読者である子どもたちは様々なバリエーションを持った読みを生み出していることが明らかとなったとともに,「語り手」に着目した読みには段階性が見られることを論じた。これらのことは文学的文章の読みの授業において「語り手」に着目した読みを指導することの有効性についてより詳細に考察することであり,さらにそのような読み方をどの段階から計画的に継続して学ばせていくべきかという,カリキュラムを構想する際の重要な手がかりとなるものである。
  • 谷津 潤, 山野井 貴浩
    2016 年 39 巻 3 号 p. 63-68
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    近年,生物教育においてもタブレット端末の活用が進められている。タブレット端末にアダプターを取り付けることで,端末自体が簡易顕微鏡になる製品が市販され,それらを利用した生物観察が行われるようになった。しかし,生物観察に対する生徒の評価や教育効果は,現在まで報告されていない。そこで本研究では,タブレット顕微鏡を利用した生物観察のための指針を得ることを目的とし,授業実践とアンケートを行った。授業では,各生徒が簡易タブレット顕微鏡を自作し,生物観察を行った。アンケートの結果,タブレット顕微鏡による観察だけで完結する形式よりも,観察結果を他の生徒と共有する過程を追加した形式の方が,実習に対する評価が高いことが明らかになった。
  • 合田 哲雄
    2016 年 39 巻 3 号 p. 69-72
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    今回の改訂においては,知識について,事実的な知識をより多く知っているという段階,即ち,「コンテンツの缶詰」にとどまるのではなく,各教科固有のものの見方や考え方を活用して考察したり,鑑賞・表現の中で身体知にしたりする学習プロセスのなかで,知識同士が概念としてつながり,ネットワーク化された「概念的な知識」に展開していくことを重視している。そのような観点から,各教科等の本質的な意義と教科等横断の学びにつながる相互の関連性の可視化は,主体的・対話的で深い学びにとって必要不可欠な土台である。
  • ― 高校の新設科目「歴史総合」を手がかりに ―
    原田 智仁
    2016 年 39 巻 3 号 p. 73-78
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    資質・能力を育成する歴史教育の実現には,伝統的な歴史教育が依拠しがちであった内容の論理に代えて,教育の論理を採用することが重要である。つまり「何を」教えるかより,「何のために」「どのように」教えるのかを重視するのである。その点で,高校地理歴史科の新設科目「歴史総合」は注目に値する。なぜなら,21世紀の市民に求められる思考力・判断力・表現力等を育成するために,現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を考察することが科目の趣旨とされるからである。だが,この趣旨を生かすためには,教育の論理に依拠した近現代史の内容構成が必要になる。そこで,筆者は①現代的な諸課題をカリキュラムのスコープに設定し,②近代化・大衆化・グローバル化という歴史の転換に着目し,過去と現在をリンクしながら近現代史を探究する「歴史総合」の内容構成案を提起する。それを通じて歴史教育による資質・能力育成の可能性を探りたい。
  • ― 理科における「見方・考え方」とアクティブ・ラーニングの視点 ―
    片平 克弘
    2016 年 39 巻 3 号 p. 79-83
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本稿では,社会に開かれた教育課程を目指す次期学習指導要領改訂の特徴が,各教科の本質に根ざした「見方・考え方」の導入とアクティブ・ラーニングの視点の導入に表れている点を述べた。理科の教科全体の「見方・考え方」は,「自然の事物・現象を,質的・量的な関係や時間的・空間的な関係などの科学的な視点で捉え,比較したり,関係付けたりするなどの科学的に探究する方法を用いて考えること」等の表現として明示された。アクティブ・ラーニングの視点の導入に関しては,単なる見た目のアクティブな学習形態にとらわれず,教員が常に子供たちの「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」に注意を払うことが重要であり,科学の本質に迫る手立てを明確に示していくことが必要である。
  • ― 家庭科の学びを通して資質・能力をどう獲得するか ―
    荒井 紀子
    2016 年 39 巻 3 号 p. 85-90
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    学習指導要領改訂にむけた審議において,教科ごとの,育てたい「資質・能力」の明示と,その実現のためのカリキュラムの構造化の検討がなされた。家庭科では学習内容を貫く4つの視点が示され,また問題解決的学習のプロセスが構造的に示された。生活の改善を目指す実践力,活用力の獲得にむけた家庭科の授業構造の転換が求められている。
  • 村井 万里子
    2016 年 39 巻 3 号 p. 91-96
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    現下国語科教育の課題は「学力低下」に深く関わる「学びの形骸化=ごまかし勉強」の蔓延である。国語・日本語教育史のなかで生まれた「対話環」理論と「形象理論」を統合した「形象-対話環」理論は,「学びの形骸化」を克服する有力な手段となりうる。「形象-対話環」理論は,実践を創出するための理論ではなく,現場の生み出した実践事象を基礎づける「基礎論」である。「基礎論」及び基礎づけの「方法論」には,普遍性と,変化する時代への適応・進化とが求められる。
  • 林 隆宏
    2016 年 39 巻 3 号 p. 97-101
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    学校は子供の成長に寄与しなければならない。ただし,子供の成長を考えたとき,自分を成長させるのは子供自身である。子供が自分や他者を大切に思い,自分らしさを大事にしながら自分をよりよく成長させる筋道に教科教育はどのように関わるのか,学校教育における教科教育学という視座で本論を述べてみたい。学校教育では,すべての子供は仲間と関わる学びにおいて,個々に「新しい価値」を創り出している。子供は日々の学校教育において,「新しい価値」を創り出す学び,すなわち,自己更新をする学びを繰り返すことにより,よりよく成長していくのである。指導者は,教科教育において,教科内容を理解させることや習得させることのみに主眼を置くのではなく,子供の成長を主眼とした教科教育を実践していくことが求められているのである。
  • ― 教育実践の理論化の方法とその有効性を問う ―
    峯 明秀
    2016 年 39 巻 3 号 p. 103-108
    発行日: 2016年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本報告は,鳴門教育大学(2016年10月23日)で開催された日本教科教育学会第42回研究大会フォーラムの検討内容を指定討論者としてまとめたものである。テーマ「教科教育学研究は学校現場の実践にいかに寄与するのか」を掲げ,「学校教育実践への学の貢献」を志向した教科教育研究のあり方・方向性と教育実践の科学化に焦点があてられた。研究者と実践者との協働,研究組織やその進め方,各々の立ち位置を見直し,教育実践の提案,改善・改革を通して,教科教育学研究を進めること,学校のリアルな現実を踏まえ,子ども同士の学び合いをどのように創出していくか,真正の学びを保障していくような研究のあり方が俎上に載せられた。筆者は「理論の実践化」と「実践の理論化」を往還的・相互補完的に捉え追求するとき,理論・モデルの目的合理性だけでなく状況整合性や具体的な実現可能性も含めた研究,とくに子どもの成長や発達が目に見える形で教科をどのようにしなければいけないかという考え方が,今後の教科教育学研究の進め方に取り入れられるべきとした。
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