2018 年 41 巻 3 号 p. 67-80
本稿は,教育実践家の白井春男によって編纂された自主編成教材『人間の歴史』をもとに,1960年代から1970年代にかけての「教育の現代化」の実相を明らかにするものである。『人間の歴史』は,国家や為政者の歴史を前提にするのではなく,無名の庶民を中心軸とする歴史教育論にもとづいて編纂された社会科教育の教材である。本稿では,当該教材の編纂の意図と経緯について検討し,①白井が歴史学者の関与なしに,独学で当該の教材を編纂したこと,②この教材が社会史や民衆史に依拠しつつ,有史と一国史に限定されない視点を持ち合わせていたこと,③「ものづくり」という方途による児童生徒の「リアリティ」の喚起を試みていたことを明らかとした。