抄録
本研究は小説「地獄変」の教材性を明らかにし,読み深めのための発展的再読を促す学習指導を提案するものである。考察対象に高2「現代文B」の単元「芥川『地獄変』を読む」[以下「前半単元]]と単元「芥川短編小説群を読む」[以下「後半単元」]を取り上げる。両単元ともにねらいは作家の創意に留意した作品の批判的な読みである。小説「地獄変」の場合,それは結末部の分析であり,「信頼できない語り手」への着目であり,「芸術至上主義」という語の問い直しであった。前半単元は批判的な読みのための観点を示し,後半単元では教科書教材の芸術論に照らした作品再読と条件付き短歌創作を試みる。後半単元における再読の手立てはどのように機能し得たか,学習者反応分析を通して後半単元の成果を明らかにし,本学習指導構想の可能性と課題とを述べる。