抄録
本研究の目的は,音楽学習において音楽活動することに基づき,その音楽活動としての音楽の体験に,単に体験を遂行する以上のたしかな学習的意義を見出すことである。森有正の経験観とS・K・ランガーのシンボル論から,音楽活動としての音楽の体験について検討した。学習者が音楽を体験するときの音楽の現れかたは,森のいう人間を定義するとされる経験としての〈感ずる〉が現れる事態と似ており,また,音楽の体験に必須の音楽は,「有情な生」として表象する人間感情と形式的な類似性をもつ。それは,ある音楽の体験が,感情や生,人間の定義と結びつくこと,すなわち音楽を体験することが結果的に経験になりうるということを示す。そこから音楽の体験としての音楽活動を考えるとき,各音楽活動には独自の「知りかた」の遂行と「前進」をみるのであり,ここに経験=〈感ずる〉が期待され,音楽活動の学習的意義が提示されるのである。