抄録
本研究では『つみきのいえ』の絵本とアニメーションの「象徴」に着目し,マルチモーダル・テクスト(Multimodal text)の比較を取り入れた〈読み〉の学習の考案・実践を行った。学習者の記述と発話の臨床的な検討を通して,「マルチモーダル・テクストの特性や対象」に着目し,作品の評価・熟考を行う学習者の姿が確認された。また,動画と効果音・音楽で構成された短編アニメーションにおいても,その象徴表現を意味づけ,「象徴」を読む学習が可能になった。以上の学習を成立させるためには,同様のマクロ構造をもつが,ミクロ構造の一部のみが異なるマルチモーダル・テクストの比較を通して「想定される作り手の意図」を読む学習過程の設定が要件であることが明らかになった。検討の結果から,マルチモーダル・テクストの比較を通して,想定される作り手と学習者との間に「生きた回路」を生むことの学習意義と可能性について提案する。