本稿では,戦後高等学校国語教科書に掲載された『今昔物語集』教材の採録状況を,戦後期の国語教科書の中で,古文教材を採録したすべての教科書を対象にした調査によって明らかにし,全体の傾向と時代ごとの傾向を検討した。結果,308冊,392教材,56種の『今昔物語集』教材が見出された。それらを総体としてみれば,文学研究とは別の論理での教材採録の様相であったこと,「本朝仏法部」所収説話の教材化の試みが特徴的であることなどが示唆されるとともに,通時的に見れば,時代を下るにつれ『今昔物語集』の入門期科目の教材としては採られにくくなり,同じ説話のジャンルに位置づく『宇治拾遺物語』との競合が示唆されること,あるいはヴァリエーションの観点からは収束の傾向が見られることなどを指摘した。