日本サンゴ礁学会誌
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最前線のサンゴ:千葉県館山のエンタクミドリイシ群体の変化
山野 博哉浪崎 直子
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2009 年 11 巻 1 号 p. 71-72

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抄録
2007年11月28日,千葉県館山市波左間(北緯34度58分,東経139度47分)でエンタクミドリイシの出現が初めて報告され,地球温暖化による水温上昇の影響の可能性が示唆された(読売新聞 2007)。それ以前に報告されたエンタクミドリイシの分布北限は伊豆半島であった(西平・Veron 1995)。我々は,当海域でのエンタクミドリイシの分布及び群体サイズの確認と,エンタクミドリイシ群体の過去の写真の収集を行って変化を明らかにし,さらに館山周辺の海水温データを収集し,変化の要因を考察した。
2009年6月5日に,水深約8mの岩場において,我々は読売新聞(2007)が報告したエンタクミドリイシ1群体に加えエンタクミドリイシ1群体を観察した(それぞれ群体1,2とする)。両群体はすでに一部が白化して斃死しており,2009年7月6日には群体1は群体の大部分が斃死,群体2は群体全部が斃死した(図1d, e, i, j)。群体の直径はそれぞれ約18cm及び9cmであった。2007年11月7日の群体1及び2の直径はそれぞれ約15cm及び7cmであった(図1a, f)。すなわち,これらのエンタクミドリイシの成長率は0.6-0.9cm/年と算出され,成長率を考慮すると,これらの群体は1999年前後に定着・加入したと推測される。群体1,2ともに少なくとも2008年12月15日までは健全な状態であった(図1c, h)。
水温は調査地点より約1km離れた坂田(東京都水産試験場・千葉県水産試験場・神奈川県水産試験場・静岡県水産試験場1986-2009)と調査地点近傍(波左間海中公園)でそれぞれ1985年及び2004年から計測されている。坂田の最寒月平均水温は0.06度/年の有意な上昇傾向を示した(t-test; p=0.0267)。1997年から2000年にかけては最寒月平均水温が約15度に達し,この水温上昇により,定着したエンタクミドリイシが生残できた可能性がある。一方で,2009年は2-3月の2ヶ月にわたって水温が13度前後になり,この長期間の低水温によりエンタクミドリイシが斃死したと考えられる。
最近,サンゴ分布が地球温暖化による水温上昇によって北上している可能性が指摘され,エンタクミドリイシ分布の北上が熊本県天草でも報告されている(野島・岡本2008)。館山はサンゴ分布の北限域にあたるため,サンゴ分布の北上の最前線と言え,そこでは本報告で示唆されるように水温の変化とともにサンゴ分布がダイナミックに変化している。群体1の一部は生存しているため,今後モニタリングを継続することにより,最前線でのサンゴの動態と,それに基づく北上の可能性が検証できるであろう。
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© 2009 日本サンゴ礁学会
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