抄録
1991年6月に宮崎県延岡市島野浦(32°40′10"N, 131°49′50"E)にある南北浦海中公園1号地区を初めて訪れた。ここでは,前年に宮崎放送の取材で60ものオオスリバチサンゴ大群体からなる群落が発見されており,その視察が目的であった。ところが,最初に目に飛び込んで来たのは,テーブルサンゴ(おそらくクシハダミドリイシ)の累々とした死骸で,海中公園指定時(1974年)に評価された自然資質(今井ら1967)は既に消失していた(図1A)。一方,この死滅群落のやや深所,水深約4.5mの転石混じりの砂地上で,直径数mの密集したオオスリバチサンゴ群体群が観察された。群体が大きいことや数が多いこともさることながら,どの群体も美しいバラの花弁状の形をなし(図1B),国内では比類のない本種の大群落であると思われた。その後,1993年に本群落を保全するために,本群落の周囲まで海中公園区域の範囲が拡張された。
オオスリバチサンゴ群落が発見されてから18年が経過した2008年に,再び宮崎放送の取材で本群落に異変が見つかり,同放送の要請を受けて2009年1月に島野浦を訪れ,群落全体をカバーする簡単な調査を行った。確認できた群体数は48で,群体の平均長径は約2m,最大のものは一部分解したものも1つに含めると8mに達した(図1C)。しかしながら,確認できた群体の中で,ほぼ健全と判断されたものは約2割(10群体)に過ぎず,他は転倒(図1D),明瞭な破損・分解(図1E),群体の一部もしくは全体の斃死が認められた。特に転倒群体は全体の5割(24群体)に及び,また,転倒は長径3m以下の中型以下の群体で顕著で,ここでも,国内の他のサンゴ群生域同様,荒廃ぶりが目立った。さらに,健全群体でも底面が砂上に現れ(図1F),転倒しやすい不安定な状態にあることが確認された。これらの観察結果と現地での聞き取りから,群落の悪化はいつ頃から起こったかは不明であるものの,悪化原因として当該海域で投錨する漁船のアンカーと,底砂の減少の2点が可能性として挙げられた。その後,2009年5月に地元の要望と漁協の協力を受けて,延岡市はオオスリバチサンゴ群落の周囲に投錨注意ブイの設置に着手した。これは,本群落の保全と復元に向けての重要な第一歩となろう。