抄録
早播きした秋播性コムギ「イワイノダイチ」における乾物生産特性, 収量構成要素, 気象要因と子実重の関連を明らかにするために, イワイノダイチと春播性コムギ「チクゴイズミ」を11月上旬の早播きおよび11月下旬の標準播きで栽培した. いずれの品種も早播区は標準播区と比較して, 低温によって葉の伸長は抑制されるが, 生育期間が長く開花期の全乾物重が大きいために, 開花期のLAIはほぼ同じであった. また, 穂数, 1穂粒数, 千粒重には播種期間の差異は認められず, その結果, 子実重にも播種期間の差異は認められなかった. 品種を比較すると, いずれの播種期においてもイワイノダイチはチクゴイズミより, 最高茎数が多いために穂数を確保しやすいが, 1穂粒数が少なく, 子実重に品種間差異は認められなかった. コムギの子実重の規定要因を解析したところ, 子実重は, 開花期のLAIおよびシンクサイズと高い正の相関関係が認められたが, 開花期以降の平均気温や日射量とは明確な関係が認められなかった. このことはコムギの子実重は開花期までの生育によって強く規定されていることを示しており, いずれの品種も早播区は, 生育期間が長く開花期の生育が十分に確保できたために, 成熟期が早いにもかかわらず標準播区と同等の子実重を得ることができたと推察された.