抄録
移植時に断根された水稲稚苗の本田移植後における冠根の原基形成および出現の経過を形態学的に明らかにすることを目的として, 葉齢3.2の苗を, 出現根を基部から切除して水田に移植し, 葉齢6.2まで経時的に個体を採取して, 主茎の連続横断切片を作製し光学顕微鏡で観察した. その結果, 断根処理によって, 移植直後の4.2葉齢個体の冠根原基数が無処理の場合よりも有意に多くなったが, これは頂端側の茎の部分 (第3“単位”以上) で冠根原基が多く形成されたためであった. また, 5.2葉齢個体では出現冠根数が無処理の場合よりも有意に多かったが, これは頂端側の茎の部分 (第3“単位”および第4“単位”以上) に形成された冠根の出現によるものであった. 一方, 断根処理によって, 冠根原基の形成が認められた茎の範囲がより頂端側にまでおよび, その結果として, 冠根が出現する茎の範囲もより頂端側にまでおよんだ. 以上より, 稚苗が断根された場合, その直後に, より頂端側の茎の部分で冠根原基が多数形成され, 出現に至ることが示された. また, 冠根の原基形成および出現が, 断根によって, 従来報告されていた出葉との間の時間的規則性よりも早く起こることが判明した.