抄録
登熟期における光合成産物の転流パターンとCGR・貯蔵物質が穂の乾物蓄積に及ぼす影響を明らかにするために,日本晴(日本型品種),中優3号(インド型品種),汕優63(ハイブリッド品種)の3品種を用いて登熟期における乾物の動態を調査した.穂と茎葉部の乾物重を(1)酵素分析法で分解される細胞内容物質(CC)と(2)酵素分析法で分解が不可能な細胞壁物質(CW)の2つに分けて解析した.その結果,穂の乾物増加速度は中優3号と日本晴では主にCGRに依存すること,汕優63では主にCCの再転流速度に依存すること,そして茎葉部のCWの増加速度が主にCGRに支配されていることが明らかになった.再転流速度は日本晴,中優3号,汕優63の順でピークが早く現れ,時期別の再転流量をみると汕優63と中優3号では登熟後半に再転流量が多く,日本晴では登熟前半の方が多かった.また穂の乾物増加速度のピークは中優3号,日本晴,汕優63の順に早く認められた.汕優63は全籾数が多かったにもかかわらず,登熟前半における穂の乾物増加速度が最も小さく,穂の乾物増加総量に対する時期別の乾物増加量の割合は登熟後半より登熟前半が小さかった.これらのことから,汕優63は出穂期或いは登熟前半に茎葉部の水溶性の再転流可能な細胞内容物質の割合が低かったことや茎葉部中の細胞内容物質の分解速度が遅かったものと推察された.