抄録
1985年から無施肥裁培(以下, 無施肥区)と化学肥料連用裁培(以下, 施肥区)を長期間継続する桑園の土壌全窒素含量および全炭素含量と収量の推移を2003年までの19年間にわたって比較した. 施肥区へは, 年間10 a当りN, P, Kをそれぞれ 30 kg, 20 kg, 20 kgを春と夏に半量ずつ表面施肥し, 無施肥区へは何も施さず, 雑草や落葉も圃場外へ除いた. 調査園では, 1985~1990年までの期間は在来の桑(品種 : 改良鼠返)が, 1991年以降は改植した桑(品種 : 一ノ瀬)が裁培された. 収穫法は, 春蚕期は条桑収穫, 晩秋蚕期は頂部4~5葉を残し下部を摘葉収穫とした. その結果, 無施肥で裁培を長期間継続した圃場において, 土壌全窒素含量と全炭素含量がおおむね平衡に保たれ, 年間の桑生葉収量も1800~2000 g m-2と安定していることが認められた. 植物体によって収奪された窒素量と土壌全窒素含量の収支から, 平衡に達した無施肥裁培では年間 17.5 g m-2の窒素の天然供給が推定された. この窒素のソースは不明であったが, 土壌全窒素含量および全炭素含量の変動から, それらとして下層土から上層の根圏への養分移動, 圃場周囲からの養分流入ならびに土壌中の微生物による大気からの窒素固定とが可能性として考えられた. 桑葉収穫後, 次の収穫までの期間が長く, かつ当年の施肥効果が現れるのが遅い春蚕期収量では無施肥区が, また収穫までの期間が短く当年の施肥への依存度が高い晩秋蚕期収量では施肥区が, それぞれ多収を示した. 吸収した養分の分配も, 施肥・無施肥処理区間に差が認められ, 養分の少ない無施肥区では葉身部への窒素の配分割合が施肥区よりも高く, このことも無施肥裁培の高い収量の一因と考えられた.