抄録
冷害気象時に被害を可能な限り早い時点で推定するため, 連続した短期間の発育ステージの冷却量に基づく障害不稔歩合推定モデルを作成した. 不稔歩合の推定には, 隣り合う偏回帰係数βの値は大きく異ならないという制限付きのノンパラメトリック回帰を用いた. 恒温深水処理における「あきたこまち」のポット試験の水温と不稔歩合の関係より偏回帰係数(水温パラメータ)を決定した. 水温パラメータを用いて他年度の「あきたこまち」を推定すると寄与率77.2%と比較的高い精度であった. また, 本手法では品種の耐冷性の違いを冷却量算出の基準温度(T0)の違いとすることで水温パラメータが他品種にも適用できる. このT0は「あきたこまち」20.5℃に対し,「ササニシキ」21.0℃,「ひとめぼれ」19.5℃であった. 2003年冷害における耐冷性の異なる品種が混在する東北6県の生育調査圃の気温と不稔歩合の関係による偏回帰係数(気温パラメータ)を決定した. 気温パラメータは, 現地圃場では推定精度が落ちるものの事前の被害診断には十分有効であった. 障害不稔歩合推定モデルをリアルタイムで実行すると被害の発生が予想される地点や地域の特定が容易になり, 現地調査を効率的に行うことができ, 被害実態の正確な把握に役立てることができる.