抄録
塩類集積地では塩ストレスと同時に水ストレスが作物生産の障害になっている.本研究は,土壌塩濃度がコムギとオオムギの水利用と乾物生産に及ぼす影響を明らかにするために行なわれた.内径7.1 cm,長さ96 cmのポットにふるった圃場の土を入れ,ポット当たり7 gおよび14 gの塩化ナトリウム(NaCl)を添加したNaCl-7 g区,NaCl-14 g区,およびNaClを加えないNaCl-0 g区を設置した.コムギ品種農林71号とオオムギ品種宝城皮8を移植して,その後給水しなかった.蒸散が停止したとみなされたときに地上部乾物重,根長,土壌水分および土壌と地上部のNa+含有率を測定した.測定結果は,2つの作物で類似していた.茎数はNaCl-14 g区がNaCl-0 gとNaCl-7 g区より小さかった.ポット当たりの蒸発散速度は,生育前半で区間差がみられず生育後半でNaCl-0 g区より2つのNaCl添加区で小さくなった.層別の根長密度はNaClの影響をほとんど受けず,上層で大きかった.土壌のNa+含有率および体積水分率はNaCl添加量が多いほど大であると同時に,層が深くなるにしたがい増えた.層別の体積水分率は根長密度と相関はみられたものの,土壌Na+含有率との相関がより強かった.地上部乾物重と蒸発散量は,NaCl-14 g区がNaCl-0 g区とNaCl-7 g区より小さかった.以上より,土壌水分が限られた条件では根の成長よりも土壌のNa+含有率が高いことによって吸水が制限され,蒸発散量が減少すると同時に乾物生産が低下することが分かった.