日本作物学会紀事
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81 巻, 1 号
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総 説
  • 坂上 潤一, 曽根 千晴, 中園 幹生
    2012 年 81 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/26
    ジャーナル フリー
    イネは,湛水耐性を持つ数少ない作物の一つであるが,長期間の完全冠水下では生育が衰退する.今後,温暖化による浸水面積の増大や集中豪雨の発生頻度の増加などが予測されており,洪水常襲地域の稲作において,洪水被害対策は極めて重要である.その一つとして,イネの冠水ストレス抵抗性の向上があげられる.一般にイネは,冠水条件下で地上部の伸長速度を速め,水面上の好気条件を得て光合成による乾物生産をおこない,生産を拡大していく冠水回避性を示す.冠水回避性には,節間伸長に関わるSNORKEL1, 2SK1, 2)遺伝子が関与しており,浮イネや深水イネに共通している.一方,イネの中には冠水中の地上部の茎葉伸長を抑制することで伸長に伴う炭水化物の消費を抑制して生存を維持する冠水耐性を示す品種もある.冠水耐性には,伸長抑制に関わるSUBMERGENCE1Sub1)遺伝子の関与が明らかになっている.幼苗期のイネが急激な水位上昇をともなう短期間の完全冠水(フラッシュフラッド)に遭遇した場合,イネ体内のエチレン濃度が増加し,茎葉部の伸長促進,および葉身のクロロフィルの障害を助長し,伸長のためのエネルギー消費が増大して,炭水化物の枯渇を招くことが多い.しかし,冠水耐性イネは,冠水中の体内エチレン濃度の上昇を抑制し,ジベレリンに対する感受性をも低下させることで茎葉部伸長を抑制し,炭水化物の需給バランスを保つことが可能である.これら異なるイネの冠水抵抗性と生存戦略の知見は冠水抵抗性品種の育成に貢献することが期待される.
研究論文
栽培
  • 古畑 昌巳, 帖佐 直, 大角 壮弘, 松村 修
    2012 年 81 巻 1 号 p. 10-17
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/26
    ジャーナル フリー
    寒冷地の湛水直播栽培条件における水稲品種の出芽・苗立ち性およびそれに寄与する特性について十分明らかにされていないため,寒冷地で育苗箱を利用して低温土中出芽検定を行うと同時に,出芽・苗立ちに寄与する可能性がある発芽特性および嫌気発芽条件における鞘葉の伸長性についても調査を行った.その結果,低温土中出芽検定における出芽速度は,初期生育量と高い正の相関関係(r=0.773)を示し,低温での嫌気発芽条件における鞘葉の伸長速度との間に有意な正の相関関係(r=0.528)が認められた.また,低温でのシャーレ発芽条件における発芽係数と低温土中出芽検定における出芽率(r=0.376)および初期生育量(r=0.215)との有意な正の相関関係は認められたが,この要因については明らかにできなかった.
  • 好野 奈美子, 小林 浩幸, 内田 智子, 島崎 由美, 敖 敏, 飛奈 宏幸
    2012 年 81 巻 1 号 p. 18-26
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/26
    ジャーナル フリー
    リビングマルチは環境保全や省力的な雑草防除として注目されているが,実用化や普及のためには事前にリビングマルチ−ダイズ栽培の適地および適期を判定することが重要である.そこで,リビングマルチの生育予測モデル作成のための基本的知見を得るため,リビングマルチとして用いるオオムギおよびコムギの現存量の推移を圃場試験と人工気象室を用いたポット試験によって調査し,現存量と気温,日射および日長の関係について解析した.圃場試験の結果,全品種とも播種時期が遅くなるほど最大乾物重は小さくなり,晩播では雑草防除に必要な生育量を得られなかった.また,いずれの播種期でもコムギ品種の方がオオムギ品種よりも生育が良好であり,一方,オオムギ品種の方がコムギ品種よりも早く枯死した.低温下におけるポット試験の結果,コムギだけでなくオオムギも収穫期までに枯死しなかった.次に,圃場試験およびポット試験を含めた栽培試験データを用いて,気温と日射によってどの程度までムギ類現存量を説明できるかを相関と重回帰分析で検証した.その結果,オオムギは気温によって生育に大きな影響を受けるため,得られる現存量を気温と日射量によって26~41%説明できることが明らかとなった.一方,コムギはオオムギに比べて気温と日射によって説明できる割合が小さく,推定精度を上げるためには土壌条件も検証する必要がある.
  • -倒伏防止処理と人為的倒伏処理-
    齊藤 邦行, 西村 公仁子, 北原 利修
    2012 年 81 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/26
    ジャーナル フリー
    ダイズ品種エンレイを供試し,倒伏が子実収量に及ぼす影響を評価するため3つの試験を行った.試験Iでは,6月中旬播種,畦幅50–80 cm,栽植密度10.0–12.5本m-2で10年間栽培を行い,子実収量,倒伏程度と気象要因との関係を調査した.いずれの気象要因ともに試験区収量との間に有意な関係はみられなかったが,岡山県平均単収と台風接近回数の間(P\<0.01),カメムシ被害の2001年を除外した倒伏程度(試験区)と台風接近回数との間(P\<0.05)に正の相関関係が認められた.岡山県平野部における倒伏の主たる要因は台風の接近による強風と降雨であり,倒伏は刈り取り損失も含めた現地収量を大きく減収させると考えられた.試験IIで倒伏防止処理が収量に及ぼす影響を検討した結果,倒伏防止区では対照区に比べて増収が認められ,中程度の倒伏に伴う減収割合は,5~7%程度であると推定された.試験IIIでは,人為的に時期別倒伏処理を行ったところ,減収率は開花期処理で9%,着莢期処理で34%,粒肥大期処理で26%となり,生殖成長初期の倒伏は分枝による補償が大きく,着莢期から粒肥大始の倒伏は減収が著しいこと,また粒肥大盛期以降の倒伏が収量に及ぼす影響は小さくなることがわかった.粒肥大初期に完全倒伏して群落の回復がみられない場合は30%以上の減収が見込まれるが,中程度の倒伏で回復が認められる場合の減収率は5–15%程度と推定された.
  • 古畑 昌巳, 帖佐 直, 大角 壮弘, 松村 修
    2012 年 81 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/26
    ジャーナル フリー
    寒冷地において酸化鉄コーティング種子を利用した水稲直播栽培法を確立する目的で,酸化鉄コーティング直播栽培における出芽・苗立ち,乾物生産性および収量性について,圃場で過酸化カルシウムコーティング直播栽培と2ヶ年比較した.酸化鉄コーティング直播栽培は,過酸化カルシウムコーティング直播栽培に比べて,播種直後の低温等により初期生育量が不足し,その結果,地上部乾物重,分げつ,LAI,窒素吸収量の増加が遅れた.そのために,穂数および総籾数が減少し,減収したと推察された.一方,播種直後の低温等で初期生育量を確保しにくい条件であっても,酸化鉄コーティング種子をより表面に播種した結果,初期生育量が増加した.そのために,その後の生育の遅れが緩和されて,減収程度も小さくなったと推察された.
  • 浦野 耕, 高橋 行継, 平井 英明, 森島 規仁, 前田 忠信, 星野 幸一
    2012 年 81 巻 1 号 p. 39-48
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/26
    ジャーナル フリー
    近年,有機栽培が注目されているが,水稲有機栽培における育苗法は確立されていない.そこで有機質肥料を用いた水稲育苗法を確立するため,プール育苗条件下における有機質肥料の選定およびその適切な施用量を森林下の表層土 (山土) を用いて検討した.まず,3種類の有機質肥料について検討を行ったところ,菜種油粕及び魚粕が有望であると示唆された.次に両有機質肥料を窒素成分として1:1で混和したものを用い,窒素の施用量別に4試験区 (窒素成分で0~3 g) を設けて検討した.その結果,山土を用いたプール育苗条件下において両有機質肥料を窒素成分で1 gずつ計2 gを施用した際に栃木県の早期栽培,群馬県の普通期栽培において目標とする生育値に最も近い苗を育成できることが明らかとなった.
  • 池永 幸子, 細川 寿, 足立 一日出, 大野 智史, 野村 幹雄, 関 正裕
    2012 年 81 巻 1 号 p. 49-55
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/26
    ジャーナル フリー
    重粘な排水不良田におけるダイズ作の湿害軽減対策として開発された耕うん同時畝立て播種技術のオオムギへの汎用利用の可能性を検討することを目的として,収穫年で2008~2010年の3カ年において耕うん同時畝立て播種技術がオオムギの生育および収量に及ぼす影響を,畝立てを行わない慣行の表面散播と比較した.播種量は耕うん同時畝立て播種技術,表面散播がそれぞれ8,12 gm-2とした.その結果,RGRはNARを高く維持することにより播種後170日以降に,地上部乾物重は播種後200日以降に畝立て区が散播区より有意に高くなり,播種技術の違いによってオオムギの収量に有意差が認められた.また,耕うん同時畝立て播種技術は,稔実率が高く一穂整粒数が増加することと,越冬後の茎数の減少が抑えられて散播と同程度の穂数を確保することによって増収した.耕うん同時畝立て播種技術では,成畝によって地下水位面から畝上端までの距離が畝立てをしない場合よりも平均して4.8 cm高いため,積雪期間以降の土壌の粗間隙率が高く維持され,好気的であることが示唆された.従って,耕うん同時畝立て播種技術は,主に積雪期間以降の湿害発生を軽減することにより,越冬後の地上部生育量を確保し,また稔実率を高めることで増収していることが明らかとなった.
品質・加工
  • 八田 浩一, 草 佳那子, 小田 俊介
    2012 年 81 巻 1 号 p. 56-63
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/26
    ジャーナル フリー
    小麦粉色相が優れたコムギ品種を育成するため,元素含有率と小麦粉色相の関係について調査した.元素含有率には互いに相関関係が認められたため,因子分析を行ったところ,第1,第3及び第5因子は品種・系統による有意な変動が検出され,なおかつ小麦粉色相値との間に有意な相関関係が観察された.第1因子は鉄,マグネシウム,マンガン,亜鉛及び燐の負荷量が大きく,その含有率が増加すると小麦粉色相の低下,すなわちL*値の低下,a*値の上昇が観察された.第1因子は燐の負荷量が大きいことから,種子糊粉層に存在する燐化合物であるフィチン酸と結合した元素の変動であり,糊粉層の小麦粉への混入程度を反映した変動である考えられた.第3因子は小麦粉色相値L*値との間に正の相関関係が観察されたが,負荷量の多かったカルシウムと燐がどのように関連しているのかは判然としなかった.第5因子はたんぱく質含有率の負荷量が極めて大きく,その含有率の増加に従い小麦粉色相の低下が観察された.以上のように,小麦粉中のたんぱく質と無機元素はお互いに異なる要因によってその含有率が変動し,各小麦粉色相に影響していることが判った.また,本研究で供試した材料では,小麦粉の元素含有率は糊粉層の小麦粉への混入程度を反映していると推察され,いずれかの元素が小麦粉色相低下の直接的な要因とは考えにくかった.よって,小麦粉色相の改善のためには糊粉層の混入が少ない,製粉性の優れた系統の育成が効果的であると考えられた.
作物生理・細胞工学
  • 哈 布日, 津田 誠, 平井 儀彦
    2012 年 81 巻 1 号 p. 64-70
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/26
    ジャーナル フリー
    塩類集積地では塩ストレスと同時に水ストレスが作物生産の障害になっている.本研究は,土壌塩濃度がコムギとオオムギの水利用と乾物生産に及ぼす影響を明らかにするために行なわれた.内径7.1 cm,長さ96 cmのポットにふるった圃場の土を入れ,ポット当たり7 gおよび14 gの塩化ナトリウム(NaCl)を添加したNaCl-7 g区,NaCl-14 g区,およびNaClを加えないNaCl-0 g区を設置した.コムギ品種農林71号とオオムギ品種宝城皮8を移植して,その後給水しなかった.蒸散が停止したとみなされたときに地上部乾物重,根長,土壌水分および土壌と地上部のNa+含有率を測定した.測定結果は,2つの作物で類似していた.茎数はNaCl-14 g区がNaCl-0 gとNaCl-7 g区より小さかった.ポット当たりの蒸発散速度は,生育前半で区間差がみられず生育後半でNaCl-0 g区より2つのNaCl添加区で小さくなった.層別の根長密度はNaClの影響をほとんど受けず,上層で大きかった.土壌のNa+含有率および体積水分率はNaCl添加量が多いほど大であると同時に,層が深くなるにしたがい増えた.層別の体積水分率は根長密度と相関はみられたものの,土壌Na+含有率との相関がより強かった.地上部乾物重と蒸発散量は,NaCl-14 g区がNaCl-0 g区とNaCl-7 g区より小さかった.以上より,土壌水分が限られた条件では根の成長よりも土壌のNa+含有率が高いことによって吸水が制限され,蒸発散量が減少すると同時に乾物生産が低下することが分かった.
研究・技術ノート
  • 境垣内 岳雄, 寺島 義文, 寺内 方克, 服部 太一朗, 石川 葉子, 松岡 誠, 杉本 明, 安藤 象太郎, 原田 直人
    2012 年 81 巻 1 号 p. 71-76
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/26
    ジャーナル フリー
    飼料用サトウキビ品種KRFo93-1において,生育とK/(Ca+Mg)当量比で示されるミネラルバランスの関係について検討した.生育の程度は株あたり乾物重で評価した.試験1では新植における生育に伴うK/(Ca+Mg)当量比の変化について,また試験2では生育期間の異なる場合におけるK/(Ca+Mg)当量比について検討した.試験1,2ともに試験開始前の土壌の交換性K,Mg,Caは栽培基準に照らして適正な値であった.新植における地上部のK,Mg濃度は生育が進むにつれて有意に低下し,K/(Ca+Mg)当量比も生育に伴って低下した.また,乾物重とK/(Ca+Mg)当量比の間には有意な負の相関関係が認められた.同様に生育期間の異なる場合においても,乾物重とK/(Ca+Mg)当量比の間には有意な負の相関関係が認められた.K/(Ca+Mg)当量比の基準値は2.2とされるが,試験1,2ともに基準値を超える例は認められなかった.以上のことから,土壌のミネラルバランスが適正な条件においては,K/(Ca+Mg)当量比は基準値の2.2を下回り,また,生育に伴いK/(Ca+Mg)当量比が低下することが明らかとなった.
  • 元木 悟, 西原 英治, 北澤 裕明, 久徳 康史, 上原 敬義, 矢ヶ崎 和弘, 酒井 浩晃, 重盛 勲
    2012 年 81 巻 1 号 p. 77-82
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/26
    ジャーナル フリー
    ダイズの連作障害におけるアレロパシーの関与について調査するため,ダイズの無作付け土壌および1,2,3,5年作付けした土壌にレタスを播種し,バイオアッセイを行った.その結果,ダイズを1年以上作付けした土壌には,レタス幼苗に対する生育阻害活性が認められた.その際,活性炭添加による生育回復効果はダイズの連作年数の増加により小さくなり,土壌の生育阻害活性は,連作年数が増加するに従い上昇するものと考えられた.また,根圏土壌の理化学性について調査したところ,ダイズを作付けした根圏土壌には,塩類の集積やpHの変動,無機養分の異常あるいは病害の発生が認められなかった.従って,ダイズの連作障害の一因としてアレロパシーの関与が考えられた.この結果を踏まえ,アレロパシー物質の吸着効果を有する活性炭の,マメ類連作圃場への施用がダイズの生長に及ぼす影響について,「タチナガハ」,「エンレイ」,「玉大黒」,「小真木ダダチャ」および「夏の声」の5品種を用いて調査した.「タチナガハ」,「玉大黒」および「夏の声」では,活性炭の施用により,収量性の低下が軽減された.
  • -作期試験の解析を中心に-
    福嶌 陽
    2012 年 81 巻 1 号 p. 83-88
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/26
    ジャーナル フリー
    日本のコムギ栽培に関しては,暖冬の影響で出穂期が早まる傾向にあることが報告されているものの,現段階で地球温暖化が収量や品質に影響を及ぼしているかは明らかではない.しかし,今後,地球温暖化が進めば,気象変動が日本のコムギ栽培に及ぼす影響も顕著となる可能性がある.著者らのコムギの作期試験の結果を解析したところ,高温によって,個葉は長くなるが稈が短くなること,1穂小花数が増加すること,千粒重が減少することが示唆された.しかし,高温との関係が不明確な形質が多いため,高温と収量の関係を予測することは困難であった.これらの結果とその他の知見を交えて,日本におけるコムギの地球温暖化対策研究の今後の展開について論じた.
  • 石川 哲也
    2012 年 81 巻 1 号 p. 89-92
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/26
    ジャーナル フリー
    米粉や飼料用米としての子実利用が期待される水稲多収品種タカナリについて,窒素施肥法が乾物生産に及ぼす影響を調査した.1999年から2001年まで,茨城県つくばみらい市において5月中旬に稚苗を機械移植した.窒素施肥量は,基肥と追肥の合計で標準区9 g m-2,多肥区18 g m-2,極多肥区27 g m-2とした.出穂期と成熟期の抜き取り (全) 乾物重や,成熟期穂乾物重には,有意な施肥法の影響が認められた.極多肥区と多肥区の比較では,出穂期全乾物重の有意差は認められなかった.出穂期から成熟期までの登熟期間において,全乾物重の増加量は極多肥区がもっとも大きかった.また,この期間の茎葉乾物重の変化から推定した転流量は,極多肥区と多肥区に明確な差は認められなかった.茎葉乾物重の再蓄積は3試験区で認められた.極多肥区や多肥区の葉身乾物重は,すべての調査時期で標準区より有意に大きく,標準区の枯死葉身乾物重は,乳熟期 (出穂後約3週) と出穂後約5週には極多肥区や多肥区より有意に大きかった.移植から幼穂形成期までの期間と,幼穂形成期から出穂期までの期間は,極多肥区や多肥区の個体群成長速度 (CGR) が標準区より有意に高く,速やかな葉身の繁茂が寄与したと推察された.出穂期から乳熟期までの期間は,CGRの施肥法間差が小さく,極多肥区が過繁茂であった可能性が示唆された.乳熟期から成熟期までの期間は,極多肥区や多肥区では葉身の枯死による減少が緩やかであったため,CGRがやや高かったと判断された.
  • 下野 裕之, 玉井 美樹, 濱嵜 孝弘, 佐川 了, 大谷 隆二
    2012 年 81 巻 1 号 p. 93-98
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/26
    ジャーナル フリー
    雪解け後の春作業が制約される寒冷地の水稲栽培の作期拡大のため,初冬播き乾田直播栽培の可能性を検討した.播種時期として初冬播き3時期(10月,11月,12月)と春播き1時期(4月)を設定し,数種のシリコーン剤を塗布したシリコーン処理の効果を出芽率,生育,子実収量から岩手県において評価した.出芽率は春播きでは89%であったが,初冬播きで有意に低く,2.6%(2008/2009年),5.9%(2009/2010年)となった.初冬播き間で比較すると,播種時期間,シリコーン処理間で有意な差異がみられなかった.単位土地面積あたりの苗立ち数は,春播きの250本m-2に対し,初冬播きにおいては,播種量を春播きの約5倍量としたため平均 79 本m-2得られた(2009/2010年).その結果,収穫期の乾物重と子実収量は,春播きと初冬播きとの間に有意な差異は認められなかった.今後,播種量を経済的な範囲まで下げるためには,出芽率の低下要因の解明が不可欠である.
情 報
連載ミニレビュー
  • 小松 節子
    2012 年 81 巻 1 号 p. 100-104
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/01/26
    ジャーナル フリー
    プロテオミクス解析は,生物機能発現の直前に存在するタンパク質群を包括的に解析することで,機能性タンパク質の同定に役立つ.質量分析計による解析とゲノム情報利用による相同検索で,タンパク質の同定が飛躍的に発展した.生体内タンパク質の相互作用を網羅的に解析できるプロテオミクス解析技術によって,植物の増殖分化・生長などに係わるタンパク質や環境ストレスにより発現が変動するタンパク質が,多数発見されてきた.これらタンパク質の機能を解明することは,食糧自給率の向上を目指した生産性の高い作物の育成につながる.本稿では,最新の植物プロテオミクス解析技術の紹介と,ダイズプロテオミクス研究から得られた成果を例示することにより,作物学への応用の可能性について解説する.
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