抄録
短日日長が水稲の生育,特に出葉転換点と出葉速度に与える影響を明らかにするために,ジャポニカ,インディカを含む8品種を自然日長および10時間日長条件で栽培した.移植日から止葉展開日までの出葉経過を2直線で近似し,その交点で表される出葉転換点と,各直線の傾きで表される出葉速度に対する日長と品種の影響を調査した.品種,処理,年次を要因とした3元配置分散分析の結果,交互作用は認められたものの,出葉転換点は短日処理により短縮されることが示された.また出葉転換点は早生品種で早く,晩生品種で遅いこと,止葉展開日との間に有意な正の相関関係が認められたことから,早晩性と関係していることが示唆された.出葉転換点と幼穂形成始期は同時期に認められることはなかったが,両者の間に有意な正の相関関係が認められた.出葉転換点以前 (L1)・以降 (L2) の出葉速度についても同様に3元配置分散分析を行ったところ, L1の出葉速度に対する短日処理の影響はコシヒカリやRayadaなどに限定されていたのに対し, L2ではTepi,Miritiを除く6品種において10時間日長区は自然日長区より有意に大きいことが明らかとなった.このことから,出葉転換点以降に出葉速度は短日処理の影響を受けやすくなることが示された.また品種間差異はL1,L2ともに認められ,特に早生で大きく,晩生で小さい傾向が認められた.一方で全生育期間を通して出葉速度が小さいMiritiのような品種も存在した.以上の結果から,出葉転換点はイネの体内生理的変化の指標となる可能性が示唆された.