近年,暗渠排水と地下灌漑の機能を兼ね備えた地下水位制御システム(FOEAS)の田畑輪換圃場への導入が各地で進められているが,コムギ栽培に対する地下灌漑の効果は明らかになっていない.FAOのマニュアルによれば,コムギが良好に生育するためにはコムギ栽培期間中に 450~650 mm の水が必要とされている.瀬戸内地域(山口県と広島県西部を除く)におけるコムギ栽培期間の降水量は 400~500 mm 程度と少ないが,コムギ栽培時に灌漑は行われていない.そこでポット栽培により,多収を得るのに必要なコムギの生育時期別の消費水量の推移を明らかにするとともに,瀬戸内干拓地のコムギ栽培圃場における灌漑の要否について考察した.ポット栽培における 1 日当たり消費水量は,播種から2月上旬までは約 1 mm で,その後増加して出穂期頃には約 8 mm に達した.登熟中期まで消費水量の多い状態が継続し,登熟後期に減少した.生育期間全体の消費水量は 612 mm,そのうち出穂後は 326 mm であった.本年(2011 年 11 月~2012 年6 月)の降水量は生育期間全体で 338 mm(平年より 77 mm 少ない),そのうち出穂後が 72 mm(平年の半分以下)であった.供試圃場の地下水位は,無灌漑圃場では –40~–60 cm,地下灌漑圃場では –30~–50 cm 程度だった.無灌漑圃場と灌漑圃場の間には,コムギの生育や収量等に差が認められなかった.これは,灌漑しなくても地下から十分な量の水が供給されているためと考えられる.