2017 年 86 巻 2 号 p. 169-176
本研究は,Glu-A1座とGlu-D1座の対立遺伝子の違いによりグルテニンサブユニット構成が異なる4種類の日本麺用コムギの準同質遺伝子系統を,異なる開花期窒素施肥量で栽培し,得られた小麦粉を用いて,サブユニット構成,タンパク質含有率の違いが製麺適性に及ぼす影響について解析したものである.Glu-A1座に支配されるサブユニットが欠失し,かつ,Glu-D1座に支配されるサブユニット2.2+12を持つ系統では,製麺時の生麺の引張強度が小さく,ゆで麺の破断強度と変形量が小さくなり,生麺が切れやすく,ゆで麺が軟らかく,細くなったことを示した.これは生地物性の弱さに由来すると考えられた.高タンパク質化すると,生麺の引張強度が小さく,変形量が大きく,ゆで麺の破断強度と変形量が大きくなり,生麺が伸びやすく,ゆで麺がかたく,太くなったことを示した.この結果は,高タンパク質化により吸水率が高くなり,生地物性が質的に弱くなった生地特性を反映していると考えられた.また,高タンパク質化により,既報と同様,小麦粉の色相は悪くなった.以上の結果から,日本麺の製麺適性において重要である,生麺の作業性とゆで麺の食感,色相を保持するためには,グルテニンサブユニット構成がGlu-A1座支配のサブユニットが欠失し,かつ,Glu-D1座支配のサブユニット2.2+12を持つ組合せではないこと,タンパク質含有率を適度に高めることが望ましいと考えられた.