亜熱帯に位置する沖縄県の石垣島は日本稲にとっては自然短日条件下にあり,日本本土よりもイネの出穂が促進される.このため石垣島では,日本各地の水稲品種育成地で交配されたイネの雑種集団について年間2ないし3世代を進める世代促進事業が実施されている.この世代促進栽培では日本水稲品種の到穂日数は新潟県上越市における到穂日数に比べ平均で,一期作(3月播種)では70%,二期作(7月播種)では52%まで短縮し,晩期作(8月播種)においては二期作よりもさらに短くなった.また,一期作ではいずれの日本水稲品種も通常の不稔歩合(概ね10%以下)を示したのに対し,二期作および晩期作では関東以西の多くの品種で不稔歩合が高くなった.特に,九州で育成された「シンレイ」「ニシホマレ」「サイワイモチ」では不稔歩合が晩期作で約60%に達した.北陸や東北,北海道のほとんどの品種は,晩期作でも不稔歩合は10%程度以下に留まった.高温による不稔の危険期とされる開花期(出穂期)の最高気温は最も高い品種で二期作および晩期作でそれぞれ32.4℃,29.4℃であり,障害型冷害の危険期である穂ばらみ期(出穂前12日から10日)の最低気温は最も低い品種でも二期作および晩期作でそれぞれ24.7℃,22.1℃であった.このため,温度条件は不稔発生の要因ではないと考えられた.関東以西の品種で発生する不稔は出穂が一段と早まる晩期作で顕著に高まることから,短日条件による大幅な出穂促進が不稔の発生に関与する可能性が示された.