日本作物学会紀事
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作物生理・細胞工学
登熟期間の高温処理による六条オオムギ「シュンライ」の硝子率上昇とその要因
岡村 夏海澤田 寛子平 将人新庄 莉奈岡村 昌樹島崎 由美関 昌子池田 達哉
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2023 年 92 巻 1 号 p. 19-27

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抄録

人工気象室を用いて登熟期間における昼間および夜間の高温がオオムギの硝子率に及ぼす影響を検討した.供試品種は「シュンライ」とし,2016年/2017年,2017年/2018年に昼間高温 (HD区:25℃/9℃),夜間高温 (HN区:20℃/14℃),標準気温 (CT区:20℃/9℃) の3区を設けて開花盛期から温度処理を行った.HD区では硝子率が上昇した.これは1粒重の減少およびタンパク質含有率の上昇が影響したためと考えられた.一方,HN区では1粒重の減少とタンパク質含有率の上昇はみられず,硝子率は同程度だった.この結果を受け,2019/2020年にHD区とCT区で登熟過程における子実中のデンプン・可溶性糖・窒素 (N) ・炭素 (C) 含有量の推移を調査した.HD区では登熟前半にデンプン・N蓄積が加速されるが,登熟期間が短縮するため最終的な個体当たりデンプン合成量が少なくなり,開花~成熟期のC含有量の変化量に対するN含有量の変化量の比(ΔN/ΔC)が高まった.また,HD区では1粒当たりタンパク質含有量が増加した.さらに,胚乳を走査型電子顕微鏡で観察した結果,HD区では大粒デンプンが大型化する一方で,小粒デンプンが小型化する現象がみられた.この結果から,昼間高温による硝子率の上昇は,胚乳のデンプンや細胞質タンパク質の蓄積パターンが変化するとともに,細胞質タンパク質が多く蓄積することが主要因と考えられた.本研究はオオムギの生産現場における硝子率の増加要因の解明の足掛かりとなると考えられる.

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