日本作物学会紀事
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92 巻, 1 号
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研究論文
栽培
  • 宇野 史生, 島田 雅博, 中村 弘和, 吉田 翔伍, 塚口 直史
    2023 年 92 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2023/01/05
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    高密度播種した水稲苗の移植栽培技術が開発され,普及が進んでいる.高密度播種苗は移植に適した葉齢の幅が狭く,許容できる育苗期間が制限される.石川県で一般的な加温出芽に加え,露地やビニルハウスでの被覆資材を用いた無加温出芽を組み合わせて出芽まで期間を変化させることで育苗期間を調節できる可能性がある.無加温出芽で育苗した場合の出芽までに必要な積算温度が明らかになれば,出芽まで期間を推測することが可能となる.そこで無加温出芽の出芽までに必要な被覆資材内の有効積算温度や被覆資材内温度に影響を及ぼす環境要因を明らかにすることを目的とし,石川県の4月上旬から5月上旬において露地およびビニルハウスで遮熱性に優れた被覆資材を用いた無加温出芽で育苗した.その際,被覆資材内温度を1時間毎に測定した.出芽まで期間は露地で7~18日,ビニルハウスで5~8日となった.出芽までの有効積算温度の変動係数は無効温度を8.7℃とした場合に最小となり,この場合の有効積算温度の全処理区平均値は63℃であった.遮熱性に優れた被覆資材を用いることで,被覆資材内最高温度は40℃以下に抑えられ,高温障害を防ぐ効果が示された.被覆資材内温度は育苗場所の温度と有意な正の相関関係が認められ,このことは育苗場所の温度により出芽まで期間が推定できる可能性を示唆する.

品種・遺伝資源
  • 森野 和子, 千葉 雅大, 安部 匡, 上田 忠正, 安達 俊輔, 馬場 浩司, 古屋 愛珠, 松本 真悟, 春日 純子, 藤崎 彗太, 小 ...
    2023 年 92 巻 1 号 p. 9-18
    発行日: 2023/01/05
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    高温は玄米無機ヒ素濃度を高めることから今後地球温暖化が進むことにより従来よりも高濃度の玄米無機ヒ素濃度を示す地点が増加することが予測され,玄米無機ヒ素濃度の低い水稲品種の育成は重要な課題である.本研究では,ジャポニカ品種「コシヒカリ」と,「コシヒカリ」に比較し玄米無機ヒ素濃度の低いインディカ品種「タカナリ」の正逆染色体断片置換系統 (CSSL),及びCSSLから派生した準同質遺伝子系統 (NIL) を用いて,玄米無機ヒ素濃度と玄米品質の調査を行った.その結果,「コシヒカリ」染色体を背景とし「タカナリ」の第10染色体断片の一部を有するNIL中に,「コシヒカリ」に比較し玄米無機ヒ素濃度が低い系統を見出した.このNILにおいては,玄米の整粒歩合は「コシヒカリ」に比較して有意差は見られなかった.

作物生理・細胞工学
  • 岡村 夏海, 澤田 寛子, 平 将人, 新庄 莉奈, 岡村 昌樹, 島崎 由美, 関 昌子, 池田 達哉
    2023 年 92 巻 1 号 p. 19-27
    発行日: 2023/01/05
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    人工気象室を用いて登熟期間における昼間および夜間の高温がオオムギの硝子率に及ぼす影響を検討した.供試品種は「シュンライ」とし,2016年/2017年,2017年/2018年に昼間高温 (HD区:25℃/9℃),夜間高温 (HN区:20℃/14℃),標準気温 (CT区:20℃/9℃) の3区を設けて開花盛期から温度処理を行った.HD区では硝子率が上昇した.これは1粒重の減少およびタンパク質含有率の上昇が影響したためと考えられた.一方,HN区では1粒重の減少とタンパク質含有率の上昇はみられず,硝子率は同程度だった.この結果を受け,2019/2020年にHD区とCT区で登熟過程における子実中のデンプン・可溶性糖・窒素 (N) ・炭素 (C) 含有量の推移を調査した.HD区では登熟前半にデンプン・N蓄積が加速されるが,登熟期間が短縮するため最終的な個体当たりデンプン合成量が少なくなり,開花~成熟期のC含有量の変化量に対するN含有量の変化量の比(ΔN/ΔC)が高まった.また,HD区では1粒当たりタンパク質含有量が増加した.さらに,胚乳を走査型電子顕微鏡で観察した結果,HD区では大粒デンプンが大型化する一方で,小粒デンプンが小型化する現象がみられた.この結果から,昼間高温による硝子率の上昇は,胚乳のデンプンや細胞質タンパク質の蓄積パターンが変化するとともに,細胞質タンパク質が多く蓄積することが主要因と考えられた.本研究はオオムギの生産現場における硝子率の増加要因の解明の足掛かりとなると考えられる.

収量予測・情報処理・環境
  • 寺本 大輝, 小野木 章雄
    2023 年 92 巻 1 号 p. 28-40
    発行日: 2023/01/05
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    過去55年にわたるダイズ育種ヒストリカルデータを用いて50品種・系統について播種期から開花期までを対象とした発育モデルの構築を行った.発育モデルのパラメータ最適化において3種類の手法,Nelder-Mead法 (NM),群粒子最適化法 (PSO),遺伝的アルゴリズムを比較した.交差検証により各手法の予測能力を比較すると差は小さかったものの,PSOが有意に他2手法より予測が正確であった.NMは初期値への依存性が他の2手法より高く,大域的最適解に達するためには異なる初期値から多数回最適化を繰り返す必要があった.ヒストリカルデータに含まれる記録数は品種・系統により大きく異なるが,最適化に300記録以上用いた場合,開花まで日数の予測値と観察値のピアソン相関係数 (r) は0.92以上,平均二乗誤差平方根 (RMSE) は4.52日以下であり,極端に正確さが悪化することはなかった.ヒストリカルデータに含まれない外部データの開花期を予測したところ,PSOで得られたrとRMSEはそれぞれ0.98~0.99及び3.20~4.34日であり,開花期予測におけるヒストリカルデータの有用性が示された.最適化されたパラメータ値を品種・系統の育成地ごとに比較すると手法間で差異はみられたものの,高緯度における限界日長の延長など一定の傾向が観察された.本研究はヒストリカルデータから発育モデルを構築する際に有益となる情報を提供するものである.

研究・技術ノート
  • 丹野 和幸
    2023 年 92 巻 1 号 p. 41-47
    発行日: 2023/01/05
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    2016年~2021年の収量データの解析によると,埼玉県内で栽培されたダイズ品種「里のほほえみ」の経済的収量は主に生物学的収量によって決定され,収穫指数の影響は極めて小さかった.そのため,現状のダイズ栽培の評価は収量構成要素への分解よりも全重計測や成長解析によって実施されるべきであると考えられた.埼玉県におけるダイズの生物学的収量の低迷は,群落の葉面積指数が不十分となっていることに起因すると考えられ,対策として播種期の早期化もしくは晩播における密植栽培の実施が有効であると考えられた.しかし,早播を導入できる面積は米麦との作業競合によって限定的であり,晩播密植栽培では供給可能な種子量が不足するという問題が考えられた.そのため,早播疎植栽培で余らせた種子量を晩播密植栽培に充てるという栽培体系が現実的であると考えられた.

  • 岡村 夏海, 澤田 寛子, 松山 宏美, 渡邊 和洋
    2023 年 92 巻 1 号 p. 48-54
    発行日: 2023/01/05
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    ムギ類において,基肥を減らして追肥を増やす施肥体系はいくつかの地域において増収効果が認められているが,関東地域のオオムギについての報告はない.本研究はオオムギの多収栽培技術の開発を目標に,六条オオムギ「シュンライ」と「カシマゴール」に対して追肥重点型施肥の効果を検討した.試験は,茨城県つくば市の水田転換畑圃場において,2016/2017年と2017/2018年の2カ年にわたり行った.施肥処理区は,基肥-分げつ期追肥-茎立期追肥が窒素成分で6-0-3 g m–2を施用した標準区(6-0-3区)に対して,3-0-6 g m–2を施用した追肥重点区(3-0-6区),6-0-6 g m–2を施用した追肥増量区(6-0-6区),3-3-6 g m–2を施用した追肥重点分施区(3-3-6区)を設けた.「カシマゴール」では,6-0-6区と3-3-6区のみ設けた.「シュンライ」では3-3-6区では6-0-3区と比べ,穂数および収量が多い傾向がみられた.硝子率は3-3-6区では6-0-3区より高く,精麦用としての品質は追肥重点型施肥により低下した.「カシマゴール」では収量は3-3-6区で6-0-3区と比べ2カ年とも多い傾向であり,原麦タンパク質含有率に差はなかった.本研究により関東地域の六条オオムギにおいて追肥重点分施施肥3-3-6区の施肥体系は収量を高める可能性が示唆され,特に粒の硝子率が問題とならない麦茶用オオムギに適性があると考えられた.

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