日本作物学会紀事
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92 巻, 4 号
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総説
  • 本田 爽太郎, 大久保 智司, 新家 寿建, 秋山 重之, 青木 直史, 田中 佑, 安達 俊輔
    2023 年 92 巻 4 号 p. 289-299
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/11/10
    ジャーナル フリー

    野外に生育する植物の葉のCO2同化速度を評価する方法は,専用のガス交換測定装置を持ち運び,測定対象葉を同化箱に挟んで数分間の待機を繰り返すことが一般的である.これには時間,労力,コストを要するため,1度の実験で測定できるサンプル数には限りがあった.そこで筆者らは,新型の赤外線ガス分析機構を搭載した新たなCO2同化速度測定装置MIC-100を開発した.閉鎖系測定装置であるMIC-100は,一般的に使用される開放系測定装置に比べて葉1枚あたりの測定時間を約1/7に短縮し,かつ強光条件下では開放系測定装置と同様の測定値を示した.さらに筆者らは,野外圃場で栽培したイネの光合成測定をより簡便化・迅速化するため,アシストスーツによる測定者の身体的負担の軽減策ならびに市販のドキュメントスキャナを利用した効率的な葉面積計測手法を考案した.これら一連の測定システムによって過去に例を見ない大規模な光合成測定実験が可能となり,イネ遺伝資源の多様性解析や多数のイネ系統の時系列解析などを実施できるようになった.MIC-100とその関連技術は,様々な植物の光合成研究や,作物の生育管理等へ活用されることが期待される.

研究論文
栽培
  • 石丸 知道, 荒木 雅登
    2023 年 92 巻 4 号 p. 300-304
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/11/10
    ジャーナル フリー

    食糧用二条オオムギ (オオムギ) において,穂肥が省略できる省力施肥法を確立するために,適する肥効調節型肥料の解明と肥効調節型肥料を活用した分げつ時の追肥1回施用体系の検討を行った.窒素溶出期間が異なる二つの重窒素標識リニア型タイプを供試し,穂揃期および成熟期における二つのリニア型タイプ (LP) に由来するオオムギ植物体中の窒素含有量および施肥窒素利用率を明らかにした.穂揃期では,二つのLP肥料に由来する窒素含有量は,30日溶出タイプ (LP30) 由来が0.35 g m–2に対し,20日溶出タイプ (LP20) 由来は0.58 g m–2と有意に多く,施肥窒素利用率もLP20由来が有意に高かった.一方,成熟期では,窒素含有量と施肥窒素利用率に有意な差は認められなかった.穂揃期の含有窒素量の多少は収量に影響を与えることから,穂揃期において窒素含有量が多く,施肥窒素利用率の高かったLP20の方が,オオムギの省力施肥に適する肥効調節型肥料と判断された.次に,分げつ肥施用時にLP20を活用した追肥1回施用体系におけるオオムギの生育,収量,精麦適性を検討した.その結果,慣行分施区と比べて出穂期は同日で,成熟期は1日遅く,倒伏程度は同程度の軽微であった.収量は,千粒重の向上により5%優れた.子実タンパク質含有率は高かったが,精麦適性は同等であった.これらのことから,分げつ時の肥効調節型肥料LP20による追肥1回施用体系は,穂肥を省略できる省力施肥法であることが実証された.

  • 伊藤 景子, 白土 宏之, 今須 宏美, 古畑 昌巳
    2023 年 92 巻 4 号 p. 305-314
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/11/10
    ジャーナル フリー

    無コーティング種子を用いた代かき同時浅層土中播種栽培において,種子予措と圃場準備作業の競合を回避するためには,種子予措を終えた種子の保存が必要である.そこで本研究では,本播種栽培で使用する鳩胸催芽種子 (以下催芽種子) や根出し種子について保存条件および保存可能期間を検討した.短期保存の場合は常温,長期保存の場合は低温による保存を想定し,まず室内試験において低温保存時の最適温度を検討した.催芽種子と根出し種子を5,10,15℃に設定した人工気象器内で0,5,10,14,21日間保存後,アグリポットに播種し,出芽個体数および生育を調査した.その結果,10℃で保存した種子は5℃および15℃で保存した種子に比べ出芽率の早期低下や,14日以上の長期保存における生育低下が認められなかったことから,低温での保存に適すると考えられた.次に,催芽種子や根出し種子を常温で0 (対照区),5,10,15日間,10℃の低温で20,29日間保存し,保存後の幼芽および幼根の伸長や圃場播種後の生育,苗立率,出穂期から保存可能期間を検討した.常温で5~15日間,低温で20日間保存した催芽種子や根出し種子の苗立率や初期生育,出穂期は,対照区との有意差は認められなかった.以上より,催芽種子は,常温 (15.9~22.4℃) では15日まで,低温 (約10℃) では20日までは保存可能であることが示された.また根出し種子は,常温 (15.0~18.6℃) では15日まで,低温 (約10℃) では20日までは保存可能であることが示された.

  • 正田 愛奈, 多田 光史, 白岩 立彦
    2023 年 92 巻 4 号 p. 315-320
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/11/10
    ジャーナル フリー

    ダイズ茎疫病 (以下,茎疫病) の発生が,湛水や土壌の過湿だけでなく,ダイズ胚軸上の傷の有無により著しい差異を生じることが室内実験により示唆されている.しかし,圃場における傷発生の実態や傷発生を助長する要因は明らかでない.圃場における茎疫病発生機構解明の一環としてダイズの茎上の傷発生に関わる知見を得るために,自然に生じる傷の頻度および深さを調査するとともに,傷発生を増加させる要因について検討した.京都大学附属農場の研究圃場(木津農場:木津川市,京都農場:京都市) での調査個体には,1.7~7.1%の個体に傷がみられた.観察した傷の深さは平均224±193 µm (標準偏差) であり,およそ62%が先行研究が有意な感染促進を認めた145 µm 以上のものであった.木津農場では京都農場より多くの個体で傷が観察され,木津農場においても精砕土を行うことにより傷発生割合は低下した.種子の外観品質については,しわ・裂皮・浮き皮のみられる種子で傷の多い傾向がみられた.以上の結果より,自然条件下において一定の頻度で茎疫病の発病促進要因になりうる深さの傷が発生していること,また,種子の品質および播種時の砕土状況がその発生率に関連することが明らかとなった.自然の傷がどの程度茎疫病の発病に寄与しているかについてさらに調査が必要である.

収量予測・情報処理・環境
  • 澤田 寛子, 大角 壮弘, 安本 知子, 小島 誠, 中川 博視
    2023 年 92 巻 4 号 p. 321-330
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/11/10
    ジャーナル フリー

    水稲において出芽日以降の気温と日長で出穂期を予測する堀江・中川の発育予測モデル (以下,標準モデル) は,栽培が播種から始まる乾田直播水稲の出穂期を精度よく予測できない可能性がある.そこで,「ふさこがね」,「コシヒカリ」,「あきだわら」の発育データから,新たに乾田直播水稲向けの出芽揃期,出穂期予測モデルを開発することを目的とした.両モデルのパラメータ決定には出芽揃期が観測されているデータを用い,出芽揃期の観測値がないデータは出穂期予測モデルのテストデータとして用いた.まず,播種から出芽揃期までの発育相について,構造が異なるいくつかのDVR式の出芽揃期予測精度を比較した結果,3品種に共通して低温でも発育が進むロジスティック式の予測精度が高かった.次に,出穂期予測では,各DVR式による予測出芽揃期で分割するモデルや,吸水過程を想定した積算気温100または120℃・日到達日を起点とするモデルが,播種から出穂期まで標準モデルのみで予測するモデルよりも予測精度が高いことが示された.これらのモデルで決定したパラメータを用い,テストデータについて出穂期予測精度を比較した結果,「コシヒカリ」では予測出芽揃期で分割するモデル,「ふさこがね」,「あきだわら」では吸水過程を想定したモデルによって予測精度が大きく向上した.ただし,3品種ともに出芽揃期実測値からの出穂期予測精度が最も高かったことから,乾田直播栽培において出穂期の予測精度をより高めるためには,出芽揃期の予測精度向上が重要であることが示唆された.

研究・技術ノート
  • 佐々木 洋平, 賀来 はる香, 田原 響平, 加藤 勝平, 小野寺 敏志, 肥後 昌男, 磯部 勝孝
    2023 年 92 巻 4 号 p. 331-337
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/11/10
    ジャーナル フリー

    本研究ではダイズの播種期による子実収量の変化に対する腐敗粒率の影響を明らかにするため,神奈川県で6月(6月区)と7月(7月区)に播種した際の子実収量,食害粒,腐敗粒の発生を調査した.日本大学生物資源科学部内圃場(神奈川県藤沢市)で2018年と2021年の2ヵ年に6月と7月に播種する圃場試験を行った.供試品種は2018年が「里のほほえみ」,「エンレイ」,「タチナガハ」で,2021年は「エンレイ」とした.調査の結果,両年とも全品種で子実肥大期の地上部の生育は7月区より6月区の方が旺盛であったが,腐敗粒率は6月区が7月区と比べて高かった.その結果,2018年は7月区の1莢粒数と1節当たりの莢数が多くなったことにより,2021年は7月区の莢数が6月区より少なかったが,1莢粒数の値が大きくなる傾向であったことにより,両年とも粒数に有意差が見られなかったため,播種期間の子実収量に有意差がなかった.また,6月区は7月区と比べ子実肥大期以降の平均気温が両年とも高い傾向にあったため,6月区では菌の繁殖による子実腐敗が発生しやすかったと考えられた.以上のことから,播種期間で子実収量に差がなかったのは,7月区では6月区と比較して,莢数が少なかったが,1莢粒数は多い傾向で,それに伴い,粒数が増加傾向にあったことによるものと考える.また,7月区における粒数の増加には腐敗粒率の低下が寄与したと推察した.さらに,本研究の結果より,神奈川県において7月に播種を行うことで害虫や腐敗粒発生の抑制に必要な農薬を減らせる可能性が示唆された.

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