2023 年 92 巻 4 号 p. 315-320
ダイズ茎疫病 (以下,茎疫病) の発生が,湛水や土壌の過湿だけでなく,ダイズ胚軸上の傷の有無により著しい差異を生じることが室内実験により示唆されている.しかし,圃場における傷発生の実態や傷発生を助長する要因は明らかでない.圃場における茎疫病発生機構解明の一環としてダイズの茎上の傷発生に関わる知見を得るために,自然に生じる傷の頻度および深さを調査するとともに,傷発生を増加させる要因について検討した.京都大学附属農場の研究圃場(木津農場:木津川市,京都農場:京都市) での調査個体には,1.7~7.1%の個体に傷がみられた.観察した傷の深さは平均224±193 µm (標準偏差) であり,およそ62%が先行研究が有意な感染促進を認めた145 µm 以上のものであった.木津農場では京都農場より多くの個体で傷が観察され,木津農場においても精砕土を行うことにより傷発生割合は低下した.種子の外観品質については,しわ・裂皮・浮き皮のみられる種子で傷の多い傾向がみられた.以上の結果より,自然条件下において一定の頻度で茎疫病の発病促進要因になりうる深さの傷が発生していること,また,種子の品質および播種時の砕土状況がその発生率に関連することが明らかとなった.自然の傷がどの程度茎疫病の発病に寄与しているかについてさらに調査が必要である.