2024 年 93 巻 4 号 p. 278-293
近年,丹波黒大豆の主要産地において,丹波黒大豆の著しい収量減少が生じている.本研究では,この収量減少問題に注目し,気候変動による気温,日射量,土壌水分の変化が収量に及ぼす影響を多面的に分析した.丹波篠山市内の定点調査圃で収集されたヒストリカルデータを対象として,農研機構メッシュ農業気象データとFAO56モデルによる土壌水分の推定,トレンド解析,Least Absolute Shrinkage and Selection Operator (LASSO)による変数選択,構造方程式モデリング(SEM)分析を組み合わせ,収量形成と環境要素の複雑な因果関係を明らかにした.FAO56モデルは,実測された土壌物理性および作物暦と農研機構メッシュ農業気象データを用いれば,定点調査圃の土壌水分を推定可能であった.トレンド解析の結果,精子実重,整粒数,整粒率に有意な減少トレンドが見られた一方で,規格外粒率,変形粒率には有意な増加トレンドが確認された.また,10月下旬の日射量の増加トレンドが精子実重の減少や規格外粒率の増加のトレンドに大きく寄与することが示された.さらに,LASSOやSEM分析により,10月上旬の土壌水分は精子実重の変動に寄与し,収量安定化に重要な要素であることが明らかとなった.これは適切な灌水計画により収量増加が可能であることを示唆している.以上の結果から,丹波黒大豆の収量減少問題に対処するための栽培技術の改善と気候変動に適応可能な生産体系の構築への道筋が示された.本研究が提供する基礎情報は,今後の丹波黒大豆生産の持続可能性向上に貢献するものと期待される.