近年,水稲・大豆などに甚大な被害を及ぼす潮風害が頻発していることが指摘されている.しかし,潮風害のような災害調査は,十分な準備と調査時間が得られず,実態を示す調査報告が多く,潮風害の圃場条件における再現法,発生機構,減収率の推定法,簡易に行える被害推定法,および潮風害の軽減対策などの研究事例は,障害型冷害や高温障害など他の気象災害に比べて極めて少ない.そこで,本総説では,水稲および大豆の潮風害の実態,発生機構,被害把握法,再現法,被害軽減技術等に関するこれまでの知見を紹介するとともに,今後の研究の展望についても解説する.
玄米外観品質を特徴づける「粒厚」が厚いなど特色のある米を求める消費者に対し,生産者や卸業者などの実需者は縦目ふるいで玄米粒厚選別した米を高品質米として販売してきた.東北(東部) 地域の主要な水稲品種である「ひとめぼれ」は,家庭用や業務用に多く用いられている.「ひとめぼれ」の玄米粒厚別の外観品質や米飯物性などの特徴を捉えることは,生産者と実需者にとって有益である.そこで,慣行の1.9 mmふるいで調製した「ひとめぼれ」玄米(以下,「慣行ひとめぼれ」) をさらに4段階の粒厚に選別し,粒厚と外観品質および米飯物性との関係に加え,登熟期の平均気温との関係を検討した.粒厚分布割合の低い1.9~2.0 mmの玄米は他の粒厚の玄米に比べて外観品質は低いが,「慣行ひとめぼれ」全体の外観品質への影響は小さい.また1.9~2.2 mmの玄米は粒厚が厚くなるにつれ,米飯粒全体の硬さは高くなるものの,全体のバランス度はいずれも「慣行ひとめぼれ」より高いことから,良食味と推察された.また,最も分布割合の高い2.1~2.2 mmおよび2.2 mm以上の玄米は登熟前期の高温により整粒割合が低下すること,粒厚が2.1~2.2 mmの玄米は登熟後期の高温によってアミロース含有率および米飯物性の粘りやバランス度が低下することが明らかになった.以上より,「ひとめぼれ」は慣行の1.9 mmふるい調製で高い整粒割合と良好な米飯物性が得られ良食味であるが,その中に含まれる割合が最も高い2.1~2.2 mmの玄米は登熟期の気温によって玄米外観品質および米飯物性が変動しやすく,「慣行ひとめぼれ」の食味に影響する.
寒冷地における水稲5品種の圃場試験,温暖地における水稲2品種×3施肥法×2移植時期の圃場試験を実施した.そして,籾を穂内位置別に強勢籾,中勢籾,弱勢籾に分類し,その籾殻サイズ,出穂20日後の粒重 (前期粒重),成熟期の粒重 (子実重),および,その差 (後期粒重) を測定した.籾殻サイズには品種による明確な差異,施肥法,年次・移植時期による僅かな差異が認められ,その多くの場合,籾殻サイズは強勢籾,中勢籾,弱勢籾の順に大きかった.子実の成長には品種,施肥法,年次・移植時期による明確な差異が認められ,いずれの場合も,前期粒重は強勢籾,中勢籾,弱勢籾の順に重く,後期粒重は,強勢籾より中勢籾,弱勢籾が重い傾向が認められた.強勢籾や中勢籾においては,籾殻サイズによって子実重が決まることが多いが,弱勢籾においては,子実が十分に成長しないことにより子実重が軽くなることもあると推察された.さらに,極大粒の「べこあおば」においては強勢籾の前期粒重が重い傾向が認められること,それとは大きく異なり,やや大粒の「にじのきらめき」においてはすべての籾の後期粒重が重いことが示された.
近年,丹波黒大豆の主要産地において,丹波黒大豆の著しい収量減少が生じている.本研究では,この収量減少問題に注目し,気候変動による気温,日射量,土壌水分の変化が収量に及ぼす影響を多面的に分析した.丹波篠山市内の定点調査圃で収集されたヒストリカルデータを対象として,農研機構メッシュ農業気象データとFAO56モデルによる土壌水分の推定,トレンド解析,Least Absolute Shrinkage and Selection Operator (LASSO)による変数選択,構造方程式モデリング(SEM)分析を組み合わせ,収量形成と環境要素の複雑な因果関係を明らかにした.FAO56モデルは,実測された土壌物理性および作物暦と農研機構メッシュ農業気象データを用いれば,定点調査圃の土壌水分を推定可能であった.トレンド解析の結果,精子実重,整粒数,整粒率に有意な減少トレンドが見られた一方で,規格外粒率,変形粒率には有意な増加トレンドが確認された.また,10月下旬の日射量の増加トレンドが精子実重の減少や規格外粒率の増加のトレンドに大きく寄与することが示された.さらに,LASSOやSEM分析により,10月上旬の土壌水分は精子実重の変動に寄与し,収量安定化に重要な要素であることが明らかとなった.これは適切な灌水計画により収量増加が可能であることを示唆している.以上の結果から,丹波黒大豆の収量減少問題に対処するための栽培技術の改善と気候変動に適応可能な生産体系の構築への道筋が示された.本研究が提供する基礎情報は,今後の丹波黒大豆生産の持続可能性向上に貢献するものと期待される.
ダイズ品種「ゆきぴりか」を供試し,2ヶ年の条間75 cm,幅条間20 cmとするTwin-row栽培 (TR) を,専用播種機を用いて実施し,条間75 cmの慣行栽培 (CR) と比較した.TRの収量は2021,2022年それぞれ24%,22%CRに比べて多収であった.このTRの多収は,収量構成要素からみると,分枝節数の増加にともなう莢数の増加によるものであった.また,受光態勢からみると,栄養成長期から着莢始期 (R3) までの植被率の上昇による積算受光量の増加と,R3以降の生殖成長後期において吸光係数が低く群落内部に日射が透過しやすい良好な葉群構造を示すことに起因すると考えられた.積算受光量の増加は同期間の個体群成長速度の上昇,生殖成長後期の受光態勢は,同期間の純同化率の上昇を通して,地上部乾物重の増加に関与したと考えられた.さらに,生育期間全体の日射利用効率はTRがCRに比べて高く,この日射利用効率の上昇は地上部乾物重の増加に結びつき,収穫指数に栽植様式間の差異がみられないことからTRの多収をもたらしたと考えられる.これらの傾向は,多照に経過し紡錘型の葉群構造を示し,分枝収量割合の高い多収年次の2021年においても,高温やや寡照で逆三角形型の葉群構造を呈した分枝収量割合の低い低収年次の2022年においても共通してみられた.以上より,北海道中央部の実規模栽培圃場においても,TRの増収効果が確認でき,その増収は栄養成長後期および生殖成長期初期における受光量の増加と生殖成長中期から後期の良好な受光態勢の両面によってもたらされると推察した.
水稲の有機栽培では,抑草技術である深水管理への適応性などの点から中苗や成苗といった葉齢の進んだ苗の使用が一般的である.しかしながら,瀬戸内のように降水量が少なく,深水管理の導入が容易ではない地域では,圃場面積あたりの使用苗箱数を削減できる稚苗を使用する方が経営上有利となる可能性も考えられる.そこで,当地域での水稲無農薬・無化学肥料栽培に対する稚苗の適性を検討するため,浅水条件での雑草および水稲の生育・収量を稚苗移植と中苗移植で比較した.入水時期の変更および機械除草により雑草発生量を変えた圃場で比較したところ,苗の違いは雑草地上部乾燥重や水稲精玄米重に有意な影響を与えなかった.また,精玄米重は雑草地上部乾燥重の増加に伴い減少し,その関係は単回帰で回帰できたが,その回帰直線の傾き・切片は中苗移植と稚苗移植で有意差が無く,苗の違いは水稲と雑草の関係に影響を与えていないと判断された.これらの結果から,浅水条件での水稲無農薬・無化学肥料栽培においては,中苗移植と稚苗移植による収量の差は小さいと判断され,圃場面積あたりの使用苗箱数が削減できる稚苗の使用は,有効な栽培手段になりうると考えられた.