2025 年 94 巻 3 号 p. 230-240
日本の農業においては生産者数の減少と農地の集積が進み,大規模経営体が多数の圃場を管理する状況にある.多数の圃場を管理するためには衛星画像の活用が有用と考えられる.ダイズ栽培では湿害が重要な減収要因の一つであり,衛星画像の解析から被害が大きい圃場を把握し,優先して排水対策を行うことで生産性が改善されると考えられる.しかし,湿害の発生しやすいダイズの初期生育は梅雨時期に当たり,可視と近赤外の波長域を撮影する衛星では地上部が雲に遮られることでダイズの生育評価が行えない懸念がある.そこで,本研究では無料で使用可能なSentinel-2,撮影頻度が高いPlanetScope,雲を透過してセンシングが可能な合成開口レーダーで撮影を行うSentinel-1の3つの衛星を対象とし,ダイズ圃場の生育評価における実用性を検討した.この検討を行うために2021年から2023年に調査を行い,ダイズの被覆率の推定精度と,被覆率の推定が可能であった圃場数を比較した.この結果,Sentinel-2とPlanetScopeはダイズの被覆率の推定精度が高く,湿害による生育低下を良く把握できると考えられた.一方で,Sentinel-1はダイズ被覆率の推定精度が低かったものの,生育評価が可能であった圃場数はいずれの年でも相対的に多かった.PlanetScopeは撮影頻度が高く,Sentinel-1と同等数の圃場の生育評価を行えた可能性があり,有用だと推察された.しかし,PlanetScopeとSentinel-2は天候の影響により,年次間での撮影状況が大きく変動したと推察され,撮影状況の安定性に課題を残すと考えられた.また,Sentinel-1での利用では推定精度の向上が必要だと考えられる.