日本作物学会紀事
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94 巻, 3 号
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研究論文
栽培
  • 近藤 琳太郎, 藤竿 和彦, 宮路 広武
    2025 年94 巻3 号 p. 199-208
    発行日: 2025/07/05
    公開日: 2025/08/10
    ジャーナル フリー

    日本のダイズ栽培においては,湿害による初期生育の抑制が収量低下の要因のひとつに挙げられる.また,農業経営の大規模化が加速しており,広大な面積の圃場に対し数十日かけて播種作業を行うような事例も存在する.広大な面積すべてに対し排水対策のような初期生育改善策を施すことは困難であるため,圃場ごとに優先順位をつけて対策を行うことが望ましい.加えて,生産者圃場においては個体の枯死等により圃場内で栽植密度が変動しうる.よって,生産者圃場における初期生育を改善し,ダイズ生産の安定化を実現するためには,播種日と栽植密度の変異に対応できる初期生育評価手法が必要だと考えられたため,本研究ではその開発を目的とした.品種「リュウホウ」を対象として,播種後40日程度までの葉面積を積算気温で記述する葉面積モデルのパラメーターを,3栽植密度×4回栽培の試験に基づき求めた.このモデルによる算出値を生育の典型とし,別途測定または推定した実際の葉面積との比を取ることで,生育点数を算出できるようにした.また,播種から葉面積モデルの始点までの日数を積算気温から求める式を5回の播種試験から求めた.これらの式を基に,生産者圃場において栽培されたダイズの生育点数を求め,生産者圃場での適用可能性を評価するために収量との関係を2年間にわたって調査した結果,両者の間にr = 0.70(p < 0.01)の相関関係があった.今後は,本研究の手法における他の品種,地域,栽植様式に対する適用可能性を検討しながら,実装範囲を広げていくことが課題になると考えられる.

  • 原口 晃輔, 松井 菜奈, 畠山 友翔, 荒木 卓哉
    2025 年94 巻3 号 p. 209-218
    発行日: 2025/07/05
    公開日: 2025/08/10
    ジャーナル フリー

    ハダカムギは,硝子質粒の発生が少ないことが望ましいが,その発生機作は不明瞭であり,有効な発生抑制技術も確立されていない.そこで,本研究では分げつおよび穂の子実着生位置ごとに硝子質粒の発生実態を明らかにし,その発生要因についても検討した.硝子質粒は,分げつ別では高位節分げつから,子実着生位置別では穂の下段から多く発生していることが明らかとなった.開花日は分げつ間にバラつきが見られ,高位節分げつほど遅くなった.また,開花日と硝子率との間に正の相関関係が認められ,開花日の遅い穂ほど硝子質粒の発生は多くなった.したがって,分げつ間における硝子率の変異は,開花日の違いに起因すると推察された.硝子率は,登熟期後期に低下し,硝子率低下と同タイミングで降雨が確認されたこと,子実含水率が22%以下の子実を吸水させると硝子率が低下したことから,登熟期後期の硝子率の低下は,降雨による乾燥子実の吸水が関与していると考えられた.一方,子実含水率が30%を超える子実は吸水しても硝子率が低下しなかった.収穫前の降雨時において,開花の遅い高位節分げつは開花後日数が短く,子実が乾燥していないことから,粉状質化が起こらず硝子質粒が多く発生したと推察された.また,子実着生位置別では開花後35日~40日において,穂の下段ほど子実含水率が高かったことから,穂の下段ほど硝子質粒が多く発生したと推察された.

形態
  • 島崎 由美, 池永 幸子, 関 昌子
    2025 年94 巻3 号 p. 219-229
    発行日: 2025/07/05
    公開日: 2025/08/10
    ジャーナル フリー

    北陸地域では六条オオムギの穂下部小穂が不稔となる現象が知られ,この地域の減収要因の一つであると指摘されている.冬作物であるオオムギは,冬期に幼穂の分化が開始する.積雪地においては,積雪の有無によって幼穂分化期間の環境が大きく変わる.下部不稔小穂数などの穂の形態が栽培環境によって異なる機構を明らかにする端緒として,本研究では幼穂分化期間を異なる環境で過ごした六条オオムギの成熟期の穂の形態が異なることを確認し,その要因を最大小穂原基数に着目して考察することを目的とした.試験は穂下部小穂の不稔が多く発生する新潟県上越市と対照とした岩手県盛岡市で3作期行った.異なる6つの環境で栽培した六条オオムギの穂は全小穂数や下部不稔小穂数,最大小穂原基数が有意に異なり,下部不稔小穂数はいずれの年も上越が盛岡よりも多かった.最大小穂原基数は幼穂分化期間の積算気温と有意な正の相関が,小穂分化速度とは負の相関があった.小穂生存率は最大小穂原基数と負の相関が認められ,最大小穂原基数が多い程退化小穂数,下部不稔小穂数が増えることで小穂生存率が低下したことが明らかとなった.上越で盛岡よりも下部不稔小穂数が多かった原因は,上越は盛岡と比べて幼穂分化期間の積算気温が高く最大小穂原基数が増えたものの,小穂生存率も低下したため,下部不稔小穂数が多くなったと考えられた.

研究・技術ノート
  • 藤竿 和彦, 近藤 琳太郎, 宮路 広武
    2025 年94 巻3 号 p. 230-240
    発行日: 2025/07/05
    公開日: 2025/08/10
    ジャーナル フリー

    日本の農業においては生産者数の減少と農地の集積が進み,大規模経営体が多数の圃場を管理する状況にある.多数の圃場を管理するためには衛星画像の活用が有用と考えられる.ダイズ栽培では湿害が重要な減収要因の一つであり,衛星画像の解析から被害が大きい圃場を把握し,優先して排水対策を行うことで生産性が改善されると考えられる.しかし,湿害の発生しやすいダイズの初期生育は梅雨時期に当たり,可視と近赤外の波長域を撮影する衛星では地上部が雲に遮られることでダイズの生育評価が行えない懸念がある.そこで,本研究では無料で使用可能なSentinel-2,撮影頻度が高いPlanetScope,雲を透過してセンシングが可能な合成開口レーダーで撮影を行うSentinel-1の3つの衛星を対象とし,ダイズ圃場の生育評価における実用性を検討した.この検討を行うために2021年から2023年に調査を行い,ダイズの被覆率の推定精度と,被覆率の推定が可能であった圃場数を比較した.この結果,Sentinel-2とPlanetScopeはダイズの被覆率の推定精度が高く,湿害による生育低下を良く把握できると考えられた.一方で,Sentinel-1はダイズ被覆率の推定精度が低かったものの,生育評価が可能であった圃場数はいずれの年でも相対的に多かった.PlanetScopeは撮影頻度が高く,Sentinel-1と同等数の圃場の生育評価を行えた可能性があり,有用だと推察された.しかし,PlanetScopeとSentinel-2は天候の影響により,年次間での撮影状況が大きく変動したと推察され,撮影状況の安定性に課題を残すと考えられた.また,Sentinel-1での利用では推定精度の向上が必要だと考えられる.

  • 飛谷 淳一, 神村 祐大, 佐々木 壱, 黒瀨 大地, 松井 俊樹, 義平 大樹
    2025 年94 巻3 号 p. 241-251
    発行日: 2025/07/05
    公開日: 2025/08/10
    ジャーナル フリー

    茎伸育型の異なるダイズ品種におけるTwin row栽培 (TR) の増収効果と収量構成要素からみた増収要因を2ヶ年にわたり検討した.供試品種として,有限伸育型「トヨムスメ」と無限伸育型「Brock」を用いて,栽植密度を8.3本/m2から55.6本/m2までの5水準を設置し,栽植様式としてTRと慣行栽培 (CR) と比較した.収量は,両品種で2ヶ年共通して,どの密度でもTR≧CRであった.このCRに対するTRの増収効果は,5栽植密度,2ヶ年平均して,「トヨムスメ」と「Brock」それぞれ107,111%と推定された.また,栽植密度と収量との間には2品種および両様式ともに2次の回帰式が適合し,最も増収効果の高い最適栽植密度は27~31本/m2と推定された.その時の増収効果は,「トヨムスメ」と「Brock」それぞれ110,120%で無限伸育型が有限伸育型に比べて高い傾向にあった.また,有限伸育型「ユキホマレ」と無限伸育型「OAC-Dorado」を用いた1年の試験においてもほぼ同様の傾向が確認できた.TR栽培における密植時の増収効果が無限伸育型>有限伸育型であるのは,密植にともなう分枝収量の減少のTRによる緩和に起因し,この分枝収量の減少の小ささは,密植にともなう分枝数の増加と分枝の一節莢数の減少の小ささに由来すると考えられた.

  • 篠遠 善哉, 嶝野 英子
    2025 年94 巻3 号 p. 252-262
    発行日: 2025/07/05
    公開日: 2025/08/10
    ジャーナル フリー

    東北地域の水田転換畑での子実トウモロコシ栽培では,高速作業体系であるプラウ耕の導入が適期作業や面積拡大において有効である.そこで,本研究では岩手県中央部の水田転換畑での現地実証試験においてプラウ耕で栽培した子実トウモロコシについて,栽植密度7000本10 a—1を得るための播種機の設定,収量800 kg 10 a—1を得るための収量関連形質と砕土率および苗立ち条件を解析した.苗立ち後の栽植密度は播種機で設定した栽植密度より3カ年平均で13%少なく,栽植密度7000本10 a—1を得るには播種機での設定播種密度を7000本10 a—1より約5%高める必要があると考えられた.収量800 kg 10 a—1は排水良好圃場のみで得られ,排水不良圃場では得られなかった.排水良好圃場において全刈収量800 kg 10 a—1を得るために必要な坪刈収量を900 g m—2に設定すると,粒数3161粒 m—2が必要であり,粒数3161粒 m—2には苗立ち率91%の確保が求められ,苗立ち率91%の確保には砕土率66%以上の確保が必要であった.以上の結果,水田転換畑においてプラウ耕で栽培した子実トウモロコシで目標収量800 kg 10 a—1を得るには,排水対策を徹底して排水良好な圃場の確保を大前提として,粒数を確保するために,苗立ち率と砕土率の確保が必要であることが示された.さらに,適切な栽植密度を得るためには播種機の設定栽植密度を目標とする栽植密度より高める必要性が明らかとなった.

  • 中野 聡史
    2025 年94 巻3 号 p. 263-270
    発行日: 2025/07/05
    公開日: 2025/08/10
    ジャーナル フリー

    ダイズ生育・収量予測モデルの適用品種の拡大に向けて,「ユキホマレ」,「里のほほえみ」,「サチユタカ」の3品種に対するモデルの推定精度を評価した.品種の差異は早晩性の違いとして発育予測モデルの品種パラメータに組み込んだ.茨城県つくばみらい市において,2017年と2018年に各年2回の播種期を設定し,上記の新規3品種を含む国内主要5品種を栽培した.子実肥大始期に地上部全乾物重,成熟期に子実乾物重および茎・莢ガラ乾物重を取得し,モデル推定値と比較した.また,出芽期~子実肥大始期までの平均群落植被率および平均日射利用効率,成熟期における収穫指数を算出し,モデル評価に用いた.新規3品種における2017年の子実乾物重の推定精度は,二乗平均平方根誤差の相対値(rRMSE)で15.8%であり,既報と比べても十分な精度であった.ただし,「ユキホマレ」では,モデルが子実肥大始期の地上部全乾物重を過大評価,成熟期の収穫指数を過小評価する傾向がみられ,発育以外の部分でモデルの調整が必要であることが示唆された.一方,ダイズ生育期間における降水量が少なく干ばつ条件であった2018年では,新規3品種における子実乾物重のrRMSEが60.1%となり,モデルは実測値よりも大きく過大評価した.モデルによる過大評価は,出芽期~子実肥大始期の平均群落受光率および成熟期の収穫指数でみられており,これらの形質において土壌水分ストレスを考慮したモデルへの改良が必要と考えられた.

  • 松波 麻耶, 熊地 智也, 岡部 幸喜, 坂田 敦, 及川 聡子, 多田 周平, 八重樫 耕一, 尾形 茂, 佐々木 周平, 小野寺 博稔, ...
    2025 年94 巻3 号 p. 271-278
    発行日: 2025/07/05
    公開日: 2025/08/10
    ジャーナル フリー

    稲作における営農面積の拡大や温暖化環境に対応した省力化技術に資するため,近年,機械化が実用可能になった疎播苗の特性とその温度応答について東北地域の主要銘柄品種を用いて調査した.試験1では岩手大学において「あきたこまち」を3月下旬から6月中旬にかけて5回に分けて播種を繰り返し,疎播(乾籾60 g 箱—1),標準(同120 g箱—1),密播(同240 g箱—1)の3条件で育苗した稚苗および中苗の苗質を調査した.疎播苗は積算地温の上昇に伴う葉齢進展や地上部および根乾物重の増加が標準や密播よりも大きかった.また,疎播苗は草丈あたりの乾物重が大きく,他の播種密度よりも高い苗充実度を示した.試験2の東北地域の主要銘柄品種における疎播苗 (同65~80 g箱—1) と慣行苗 (同120~160 g箱—1) の比較においても,疎播苗は栽培地や品種に関わらず,積算気温が400~700℃日の範囲において慣行苗よりも高い乾物重と苗充実度を示した.いずれの試験においても疎播苗は温度1℃あたりの乾物生産量が他の播種密度よりも大きく,このことが幅広い温度域における優れた乾物生産能や苗充実度に寄与していた.したがって,春の異常昇温や大規模経営体での移植作業の遅れに伴う育苗期間の延長など,育苗時の温度環境が上昇した場合でも疎播苗は優れた苗質を維持できることから,移植時期が長期となる大規模経営体や温暖化環境に適応した技術であると考えられる.

  • 篠遠 善哉, 古畑 昌巳, 冠 秀昭, 屋比久 貴之, 田中 惣士
    2025 年94 巻3 号 p. 279-293
    発行日: 2025/07/05
    公開日: 2025/08/10
    ジャーナル フリー

    東北地域では,担い手の高齢化や減少と長引く米価の下落により水稲栽培での省力低コスト栽培が求められ,プラウ耕鎮圧体系乾田直播(プラウ耕乾田直播)の栽培面積が広がりつつある.しかし,プラウ耕乾田直播で多く使われている肥効調節型窒素肥料は今後,環境への影響から使用が難しくなることが想定される.そこで,本研究では寒冷地のプラウ耕乾田直播栽培において堆肥と尿素による窒素単肥体系(単肥区)が水稲の生育および収量に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.岩手県盛岡市の多湿黒ボク土水田において「あきたこまち」を用いて肥効調節型窒素肥料を用いた慣行施肥体系と単肥区を比較したところ,苗立ち,生育および全刈収量に有意差は認められなかった.「つきあかり」を用いて農家圃場で実施した現地実証試験(岩手県花巻市,宮城県大崎市)の単肥区では,苗立ち本数は100本 m—2以上であり,全刈収量は平均で600 kg 10 a—1以上であった.さらに,全刈収量と1穂籾数,全刈収量と登熟歩合,総籾数と千粒重にはそれぞれ正の相関関係が認められた.以上の結果,寒冷地のプラウ耕乾田直播における堆肥と尿素による窒素単肥体系では,肥効調節型窒素肥料を用いた慣行体系と比較して水稲の生育および収量が同程度であることが多湿黒ボク土水田で明らかとなり,現地実証試験で概ね600 kg 10 a—1以上の多収が示された.このとき,収量の安定には1穂籾数の確保に加えて,登熟歩合を確保しつつ,総籾数と千粒重の確保の両立が重要であると考えられた.

  • 伴 佳典, 吉田 朋史, 船生 岳人
    2025 年94 巻3 号 p. 294-300
    発行日: 2025/07/05
    公開日: 2025/08/10
    ジャーナル フリー

    「きぬあかり」は愛知県が育成した収量性の高い日本麺用コムギ品種である.2016年以降,県内コムギ作付面積の約8割にあたる4500 ha前後で栽培され,2018年から2020年には10 aあたり収穫量が3年連続で全国1位になるなど,当県コムギ収量の向上に貢献してきた.本研究は,愛知県内コムギ実需者の要望等により設定した目標「子実タンパク質含有率9.0~9.5%」並びに「実収量10 aあたり480 kg」達成を目指し,生育期間中のコムギの生育状況から生産現場で簡易に追肥窒素量を診断できる手法を開発することを目的に実施した.まず,2カ年にわたり農業総合試験場内ほ場で播種時期と窒素施肥量の組み合わせ試験により作出した生育状況の異なる合計288の調査値を解析した.その結果,目標達成の目安となる成熟期の植物体地上部窒素吸収量は12~17 g m—2であること,茎立期の生育指標値(草丈・茎数・葉緑素計値の積)は同時期の植物体地上部窒素吸収量並びに成熟期の子実タンパク質含有率及び単位面積あたり収量などと高い正の相関があることを明らかにし,茎立期の生育指標値に応じて追肥窒素量を増減する手法を設計した.さらにその後2カ年にわたり,県内のコムギ生産者が栽培する栽培管理や生育の異なる49の現地ほ場において,設計した追肥窒素量診断法の検証を試みた.その結果,茎立期の生育指標値から診断した追肥窒素量を施用することで,慣行と比較して子実タンパク質含有率及び単位面積あたり収量が高まり,目標に近づける効果を明らかにした.

  • 佐々木 壱, 北畠 拓也, 松井 俊樹, 黒瀨 大地, 梶田 路津子, 松本 奈緒子, 飛谷 淳一, 志賀 聡, 義平 大樹
    2025 年94 巻3 号 p. 301-311
    発行日: 2025/07/05
    公開日: 2025/08/10
    ジャーナル フリー

    アズキに対する微量要素の増収効果を明らかにするため,灰色台地土である江別,淡色火山性土である帯広の2地点において,「エリモ167」と「きたろまん」に対して,ホウ素・亜鉛・マンガン (試験1) および亜鉛・鉄 (試験2) を含む肥料の施用試験を2カ年にわたり実施した.2地点ともに栽培前土壌における熱水可溶性ホウ素,可溶性亜鉛,交換性鉄の含有率は土壌診断基準値以下または下限値に近い含有率であった.無処理区に対する増収効果は,試験1においてFTE区 (く溶性ホウ素,マンガン),アグリエース区 (く溶性ホウ素,亜鉛,マンガン),水溶性区 (水溶性ホウ素,亜鉛,マンガン) それぞれ両試験地,両年,両品種平均で19%,13%,8%であった.資材中の亜鉛の有無による収量の差がみられないこと,土壌中のマンガン含有率から,増収効果はホウ素の吸収量の増加に由来すると考えられた.試験2における増収効果は土壌施用区 (く溶性鉄,亜鉛),葉面施用区 (水溶性鉄,亜鉛) それぞれ両年平均で20%,38%であった.葉面施用区が土壌施用区に比べて増収したのは,亜鉛および鉄の吸収利用率が高かったためと推察される.収穫後における土壌中ホウ素・亜鉛・鉄の増加量は最大でも0.2 ppm,1 ppm,5 ppm程度と極めて少量に留まった.両試験を通してホウ素360 g/10 a,亜鉛900 g/10 a程度の施用はアズキの増収に有効である可能性が示唆された.

  • 津田 昌吾
    2025 年94 巻3 号 p. 312-322
    発行日: 2025/07/05
    公開日: 2025/08/10
    ジャーナル フリー

    バレイショの収量構成要素は塊茎数と塊茎平均重であり,増収のためにはそれらの収量構成要素を高める必要がある.植付け前の種いもへのジベレリン(GA)処理によって収穫期の塊茎数が増加することが知られているが,塊茎平均重は低下するため,収量は増加しない.一方,ジャスモン酸には塊茎肥大を促進する作用があることが知られている.そこで,本研究ではジベレリン処理に加えてジャスモン酸の誘導体であるプロヒドロジャスモン(PDJ)処理を行うことによって,バレイショ収量が増加するかを検討した.品種は塊茎数が多い個数型の男爵薯と,塊茎数が少ない個重型のトヨシロを供試した.GAは植付け前の種いもに10 ppmで浸漬処理を行い,PDJ処理は塊茎形成期に100 ppmから200 ppmを葉面散布した.その結果,いずれの品種においてもGAとPDJを組合せ処理した区では追肥区並みに収量が増加した.品種間差異としては,男爵薯では比較的小粒の塊茎数の増加,トヨシロでは比較的大粒の塊茎数が増加する傾向が認められた.また,GAとPDJを組合せ処理した区ではGA処理と追肥を組合せた区や,PDJを単独処理した区に比べて安定した増収効果が認められたことから,GAとPDJは塊茎肥大に相乗的に作用する可能性が示された.また,GAとPDJを組合せ処理した区では追肥区と比べて澱粉価の低下も少なかった.以上より,ジベレリン(GA)およびプロヒドロジャスモン(PDJ)を組合せた処理は追肥に代わる増収技術となり得ると考えられた.

速報
  • 加藤 宏幸, 山浦 寛子, 山崎 諒, 猿田 正恭, 熊谷 悦史
    2025 年94 巻3 号 p. 323-325
    発行日: 2025/07/05
    公開日: 2025/08/10
    ジャーナル フリー

    ダイズの収穫適期(茎含水率50%以下)を生産現場で簡易かつ迅速に判断する手法として,抵抗式水分計 MR55の活用を検討し,その計測値を用いた回帰モデルおよび分類モデルによる予測精度を評価した.MR55による全茎計測は,茎含水率の予測精度が高く,収穫適期判定においても優れた分類性能を示した.また,主茎上部のみの計測においても,全茎計測と同等の茎含水率の予測精度を示し,さらに分類精度は全茎計測を上回る結果を得た.本手法は,茎の細断を必要とせず,少ない計測回数で収穫適期の判定が可能であることから,現場での迅速な茎含水率測定および収穫適期判定の実用的な手段として有望であると考えられる.

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