日本作物学会紀事
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根の機能に関する細胞生理的研究 : (1) 水稲根に於ける物質及酵素の組織化学的分布
相見 霊三藤巻 和子
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1958 年 27 巻 1 号 p. 21-24

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抄録

根の"活力"というものを何等かの方法で端的に表示できないものであろうか. それには先ず根の中における物質と酵素の種類・強さ及び分布をしらべそれを基にして元気のある若い根と衰えた古い根とで比較したら, その差から何か活力を示すに足る特性をつかみ出せはしないだろうかという観点からこの実験を行つた. その結果, (1) 根の分裂帯では蛋白態カリ, 有機態鉄, 燐酸, 遊離SH, 蛋白態SH, アルギニン, 酸性及びアルカリフオスファターゼ, 脱水素酵素等の如く物質の合成や分解等の代謝に特に関係のあると思われる物質や酵素が多量に分布していることが分る. これに反し, エネルギー源となるような澱粉や還元糖の炭水化物は分裂帯には殆んど見出すことが出来ない. これは分裂帯に於て非常に活溌な代謝が行われている為, これら炭水化物は強く消費されているためと思われる. 従つて根が正常な機能を営むためには地上部からの栄養が絶えず送られていることが必要で, 地上部と根との間に非常に密接な生理的関係が成り立つていることがこの事からも想像される. (2) 脱水素酵素は若い根に於ては分裂帯は勿論, 根全体に強い活性をもち, 古い根に於ても分裂帯は強い活性をもつている. この酵素の活性は, 根の古くなるに従つて弱くなつていき, 老化した根や死んだ根では遂に検出されなくなる. 従つてテトラゾリウムによる脱水素酵素の反応は根の活力を診断する一方法として用いられるものと思われる. (3) 根冠は酵素及び物質の分布からみて, 根のその他の組織と異る特徴を示しているように思われる. 即ち澱粉, フオスフオリラーゼ等, 他の部分では非常に弱くしか検出されないものが強く分布し, 一方パーオキシダーゼ, フオスファターゼ, 燐酸, 蛋白態カリのような根の他の組織にも強く分布するような物質も又根冠に見出される. このようなことから根冠は根の先端器官としての機能を司るのに何か特別の構成をもつているように思われる.

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