抄録
1969~70年と1971~72年の生育期におけるコムギ個体群の光合成能力 (0.6 ly・min-1の日射強度, 適温附近の温度下での単位土地面積当りのみかけの光合成速度) と呼吸能力 (10℃の下での単位土地面積当りの呼吸速度) の生育に伴う推移, とそれらに関連する要因について検討した. 結果は次のごとくである.
1. 両生育年度とも, 個体群光合成能力は, 生育のすすみに伴ってはじめゆるやかに後急速に増大して開花期頃に最大値に達し, その後急速に低下した.
2. 両生育年度とも, 生育のすすみに伴って, 個体群光合成能力はLAIとほぼ並行的に推移した.
3. 生育各期のLAIと個体群光合成能力との量的関係を検討した. 個体群光合成能力はLAIが小さい範囲ではその増加に伴いほぼ直線的に増大し, LAI 4~5で頭打ちとなった.
4. 出穂前と出穂後の個体群光合成能力を同じLAIの下で比較すること, 並びに, 穂を人為的に切除し, それによる光合成の低下程度を調べることによって個体群光合成能力に対する穂の寄与について検討した. この結果, 穂が個体群光合成能力に10~20%程度寄与していることが認められた.
5. 個体群呼吸能力は生育のすすみに伴って増大して開花期ないしその若干前に最大値を示し, その後急速に低下した.
6. 植物体の組織の呼吸活性 (10℃の下での組織単位乾重当りの呼吸速度) は冬季の間ほぼ一定した値を示し, 2月中旬頃から増加し始め, 個体群が急生長する3月の上・中旬に最大値に達し, その後低下した.
7. 前述のような個体群呼吸能力の時期的推移は, 生育前半にはおもに個体群の組織の量の動きに, 生育後半にはおもに組織の呼吸活性の動きに関連していた.