抄録
穂ばらみ期の冷温により不受精が発生する,いわゆる障害型冷害にさいして,穂の上部の頴花は下部の頴花よりも不受精の発生がおおいことが,いくつかの論文により報告されていた. この現象は不受精の発生機構の問題にも関連して注目すべきものであるが,これまでの報告はいずれも圃場における観察にもとずいており,冷温の時期・程度などの条件が充分あきらかでなかった. この論文は,ファイトトロンを用いて上記の現象の追試をおこない,人工環境下において,上部の頴花は下部の頴花よりも冷温感受性がたかいことをあきらかにした. すなわち,上位枝梗(第1~第3枝梗)は下位枝梗(第4以下の枝梗)よりも,1次枝梗は2次枝梗よりも,また枝梗先端の頴花は2番目の頴花よりも不受精歩合がたかかった. 換言すれば,一般に生育のはやい頴花ほど冷温感受性がたかかった. この原因についてはなおあきらかでないが,人工環境下での再現は解明への手がかりをあたえるであろう.