抄録
水稲根は,アンモニア態窒素を吸収したのち,直ちにアマイドならびにアミノ酸に同化する. 一方,サイトカイニンは,根部(根端)で生成され地上部へ移行し,葉身のN代謝などの制御に重要な役割をはたしているものと考えられている. しかし,根部におけるNの初期同化過程における根端ならびにサイトカイニンの役割について明らかにした報告はみられない. 本研究は,水稲分離根における15NH4-N同化におよぼす根端の有無ならびにそれらにおよぼすサイトカイニン効果について調査したものである. 結果は次のごとくである. 1) 根端の切除は,遊離アミノ酸ならびに全蛋白区分への(15NH4)2SO4からの15Nのとり込みをかなり低下させる. しかし,サイトカイニンを供給するとそれらへのとり込みは明らかに回復する. 2) 根端を切除した水稲根における15Nのとり込みにおよぼす数種のサイトカイニンの影響を検討すると,遊離アミノ酸ではBenzyladenine, Benzyladenosine, Zeatinなどが15Nのとり込みを高めている. 全蛋白区分では, Zeatin, Zeatin riboside, Benzyladenine, IsopentenyladenineなどがAdenineより15Nのとり込みを高めている. 3) 根端を切除した分離根における遊離アミノ酸のうちでグルタミンの15N含量は最も高く,アスパラギンのそれは低い傾向が認められた. サイトカイニンを供給するとアスパラギンを除く全てのアミノ酸の15N含量は高くなる. しかし,15Nとり込みパターンにおよぼす根端の有無ならびにサイトカイニン処理の影響は認められない. 4) 以上の結果から,水稲根におけるNの初期同化過程には,根端が密接に関連しており,おそらく根端で生成されるサイトカイニンが重要な因子として働いている可能性が示唆された.