抄録
イネ花粉の発育は,雄性不稔および花粉育種の観点から興味深い課題である. 本研究では,走査電子顕微鏡をもちいて,花粉の発育をその表面微細構造の変化の側面から研究した. またとくに,タペート細胞の表面構造変化と花粉の発育との関係についても注目した. 四分子期の小胞子の表面は,はじめ滑面であり,この時期のタペート細胞の表面も同様に滑面の構造を示すが,のちに小胞子表面に多数の粒状構造が現われると,タペートの表面にも,この細胞からの分泌物と考えられる隆起が見られ,さらに球形あるいは楕円形の構造が表面に付着するようになる. 花粉の発育が進み,発芽孔をタペート細胞に密着させて花粉が葯壁にそって並ぶ時期になると,花粉表面に物質が集積する. さらに花粉が成熟すると,花粉表面に粒状体,または2ないし4個の粒状体が集まった構造が見られる. この時期のタペート細胞の表面には,小さなとげをもった球状体(Orbicule)と思われる構造が多数現われる. 以上の如き観察結果から,小胞子および花粉の表面とタペート細胞の表面構造との関係を,花粉の発育に関連して論議した.