日本作物学会紀事
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水稲の葉から根への窒素の転流
巽 二郎河野 恭広
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1981 年 50 巻 3 号 p. 302-310

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抄録
第9葉抽出期の水稲の第8葉身(成熟葉)または第5葉身(古葉)を,15Nで標識した0.2%尿素溶液に浸潰し吸収させ,7日後の植物体各部分への15Nの分布状態を調べた. 第5,8葉身から吸収された15Nの一部は15N供与葉中に,他は生長の活発な新葉(第9,第10葉),分げつ,新根(第6,第7節根)ヘ転流し,それぞれTCA不溶態窒素画分にとり込まれた. これとは対照的に供与葉より下位の葉への15Nの転流は不活発であった. 供与葉から転流した15Nの根への分配割合は,培養液中に窒素が存在しない条件下(-N区)において,第8葉(約27%)よりも第5葉(約47%)で明らかに高かった. 培養中に窒素が存在する条件(8ppm,+N区)でも,第8葉から転流した15Nのうち約25%が根ヘ分配され,培地中の窒素の有無は葉から根への窒素の転流割合にほとんど影響を与えなかった. 実験期間中の-N, +N両区の水稲体各部分の窒素含量の増減から,この期間中に生長した新葉ならびに新根へそれぞれとり込まれた窒素のうち,根から新たに吸収された窒素と植物体中の他の部分から転流した窒素の割合を推定した. その結果,新葉と新根における他の部分から転流してきた窒素(再転流窒素)の割合は,それぞれ約46~52%と約59%であった. 以上の結果より,とくに根の生長に必要な窒素のかなりの部分が地上部から供給されており,成熟葉ならびに古葉が新根への窒素供給器官として重要な役割を果していると推論した.
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